IBMの投資判断 (1) 打ち捨てられた銘柄への投資



米国投資家の方は、一度はIBMの株式購入を検討されたことがあるのではないかと思います。バフェットがコア銘柄の一つとした有名な銘柄です。


バフェットが同銘柄に対する売りを開始してから株価は下落の一途を辿っています。市場はPER 11.83倍と同銘柄を見放しているようです。


このシリーズではIBMへの投資判断に関して、私見をお伝えしていこうと思います。


IBMは1911年に創業し100年以上の歴史を持つ老舗IT企業です。政府や官公庁、大企業、病院などを中心にITサービスの手伝いを行うことで、長年にわたり安定した業績、顧客基盤を築いています。年次報告書では、下記のように書かれています。


我々は世界のトップの銀行の90%、石油ガス会社のトップ100社の内の9社、トップ50の小売業者の内の40社、ヘルスケア組織のトップ100社の内の92社と連携しています。


医師をしている私は電子カルテを用いることが多いのですが、電子カルテは個人情報の集合体であり、トラブルで止まってはならないミッションクリティカルな情報サービスです。このようなサービスは一度企業にサービス構築を依頼すると、移行トラブルやシステム停止のリスクを考えると容易に他の企業には移行出来ない、「粘着性」があると感じています。


銀行システムや政府の軍事システムなど、同じように同社に大きく依存してきた部門は多くあったと推測します。


さて、IBMが直面している問題は同社の主力商品であったメインフレームからクラウドへの転換という、業界全体の大きなトレンドです。


メインフレームでは寡占モデルを築いていたIBMですが、クラウドではAWSが豊富な資金を背景に価格競争を仕掛けています。メインフレームからクラウドへの流れを受けて、ビジネスモデルの転換に時間を要しているIBMに、アマゾンとの競争という二重の逆風が吹いています。




IBMの年次報告書から私が作成したグラフです。青 総売上、橙 戦略分野売上(クラウド・人工知能・セキュリティなど)、灰 非戦略分野売上です。2015 → 2016年の成長率をもとに将来の売上推移を予測しました。


かつて多くを占めていた非戦略分野の減少を、戦略分野の増加では補えていないことが見て取れます。



戦略分野の売上成長率は2014 → 2015年は16%、2015 → 2016年は13%であったものが、直近の四半期決算では年当たり5%と低く、レガシー分野が先細る中で、更に戦略分野の成長率も伸び悩んでいる印象です。


先ほどのグラフのように将来、戦略分野の成長によって、売上が反転すればよいのですが、直近の決算を見る限りでは更なる業績下振れの可能性も有りそうです。


バフェットの戦略は、寡占企業などのブランド企業が、一時的な理由で業績低迷しているときに買い付けを行うものです。業績の高成長率が、将来もブランド価値により続くことを投資根拠としますので、寡占性が損なわれた場合には損失を出すことになります。


このIBMの場合は、一時的な業績低迷では無く、アマゾンとの熾烈な競争に巻き込まれシェアを奪われていく、永続的なものとなる可能性が高いと私は考えます。バフェットは、AWSによって予想外にシェアが蚕食される状況を見て売却を開始したのでしょう。


それでは、IBMはアマゾンとの競争に敗れ、完全に消滅してしまうのでしょうか。政府・銀行・病院は全てAWSに乗り換えるのでしょうか。


優秀な売上高利益率・ROEといったファンダメンタルズの存在、そしてどうしても離れられない企業も存在するだろう先ほどの粘着性も考慮すると、同社が倒産に至る可能性は小さいと私は思います。


IBMにもし投資するのであれば、IBMの本質的価値を求め、そこに安全域を含めた価格で購入する必要があります。この場合、バフェット銘柄以外の方法で本質的価値を考える必要があるでしょう。


次回は、IBMの本質的価値を考察していきたいと思います。



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