バリュー投資の指標の見方(3) EPS、そこに込められたメッセージ





リーマン・ショック後から続く、長い好況に米国市場と世界は沸いています。


現在のような上昇相場において企業の株価を規定するものは、その企業が持つ固定資産やキャッシュなどという簿価よりも、寧ろその株式が生む利益とその成長率、即ちEPS (一株当たり利益: Earnings per share) の成長率が大きな要因となります。


その最たる例がアマゾンやネットフリックスなどに代表されるグロース株です。こういった株式では高いEPS・売上高の成長率に伴い株価が上昇し、更に将来的に成長するだろうという期待が、株価を押し上げ続ける現象が生じます。


非常に重要なこのEPSという概念に関して、今回はバリュー投資からの指標の見方、そしてその用い方を考察していきます。




EPSを構成する要素


EPSは下記の式から算出されます。


EPS = 純利益 ÷ 発行済の株式数


即ち、(1) 純利益、(2) 株式数がEPSを規定する要因です。そして株価はEPSから下記の式で算出されます。


株価 = EPS × PER


そのため理論的に、EPS成長率 = 株価の成長率ということになりますね。またEPSが順調に伸び続ける銘柄では、同時にその企業の成長に対して強い市場からの期待が寄せられることとなるため、それを反映しPERも上昇し、株価は両者の相乗効果で大きく上昇することとなります


EPSから求める将来の予測株価


メアリー・バフェットの著作、「バフェットの株式ポートフォリオを読み解く」に、バフェットの投資法として、このEPSの成長率を用いた株価計算方法が紹介されています。


強力なブランド価値、寡占性を持つ企業では、過去と同様の成長を今後も示すと考えられます。こういったブランド企業(かつてのコカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス、P&Gなど)においては、下記の法則が成り立ちます。


(過去10年間のEPS成長率) = (今後10年間のEPS成長率)


このことを背景として、下記のような将来のEPS予測が可能になるのです。


(10年後の予測EPS) = (現在のEPS) × (過去10年のEPS成長率)^10


さて、株価 = EPS × PERで表されますので、この予測EPSに対してPERを乗じれば10年後の予測株価、そしてそれによる10年間の予測利回りが計算できます。


(10年後の予測株価) = (10年後の予測EPS) × (PER)


この際に用いるPERは過去10年の最低PERを用います。これは経験則的に10年間という期間であれば一度は景気循環の谷を経験していることが多い故です。


実際の株式での計算は個別株の各項に譲りますので、御参照頂ければと思います。


またこの方法の優れた点は、過去10年間に行われた自社株買いの程度も予測株価に反映される点が挙げられます。


予測株価の精度


メアリー・バフェットの方法では、将来の予測利回りが最低10%となる銘柄への投資が推奨されます。


これは、(1) S&P 500の平均利回りが過去に10.85%/年であったため、個別株投資を行う場合はこの水準を超える見込みが無ければ、個別株に投資する意味自体が無いこと、(2) リーマンショック時などの低いPERを用いた将来株価の目算でもなお利益を生むと思われる株価で購入することが即ち、安全域を確保することに繋がるためと私は考えています


さて、この方法で求められた予測株価と予測利回りの実際のリターンを考えていきます。


この方法を用いた場合、代表的な過去のバフェット銘柄の実績は、実際には年10%を大きく上回っています。


また私見ですが、私が過去10年程で行ってきた割安株の投資でも同様の傾向の印象を持っています。


これは先にお伝えしたようにEPSの上昇が続く株式ではPERも同時に跳ね上がり、二重に株価を押し上げるためです。そのため多くは10年を待たずして、2-3年ほどで株価は十分に上昇することが多いように思います。


但し注意すべきは、「強固なブランド力を持つ寡占企業」でなければこの戦略は通用しないことです。現在のIBMやコカ・コーラのように、時代の変化によりその「堀」が毀損された場合は、損害を出すことも有り得ます。


しかしながら、この場合にも非常に安い購入株価、即ち安全域の存在がポートフォリオに対するプロテクターとなるのです


EPSを修飾するもの


先にお示ししたように、EPS = 純利益 ÷ 発行済の株式数 であるため、EPSを修飾する要因としては (1)自社株買い、(2)一時利益による純利益増加が挙げられます。


売上げと営業利益の上昇が殆ど無く、成長見込みが乏しいにも関わらず、自社株買いによってEPSだけが成長している企業は注意を要します。この場合は、前述のような「堀」は存在しない可能性が高いと思われます


また資産売却などの一時利益による一過性のEPS増加も注意が必要です。この場合、一過性の利益は除外して銘柄選択を行う必要があります


EPSに込められたメッセージ


株価は、その株式が挙げる将来の利益見込みを市場が自然と織り込み、反映する性質を持ちます。


一株当たりに分割された純利益という、EPSの概念は株式の本質を表していると思えますし、ブランド価値と寡占性が保障するその安定した成長に賭けるバフェットの投資方法は非常に理に適うと考えます。


この考え方に沿いつつ投資を行うこと、これはバフェットの時代から今の時代へと移ろい、重工業からITに産業構造が変化した今後の米国においても有効ではないだろうか、そう思っています。


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