VTの投資判断(2) リターンが振るわぬ理由と、その解決への考察



前回、VTがこの10年間で見るとS&P 500指数をアンダーパフォームしていること、その原因が欧州・日本・新興国など米国以外の各市場のリターンが振るわなかったことにあるとお伝えしました。


今回はVTが米国株式市場に比べ、今後も「負け組」でありつづけるのか、その長期的な展望に関する私見をお伝えします。



過去の世界投資


明暗分かれる世界


過去、資本主義下において株式市場は長期的に大きなリターンを投資家にもたらしてきました。


※2017年2月24日付 Bloomberg 1900年以降の激動の世界 投資リターンが変わらずに高い国より引用。


上図は1900年 - 2016年の各国の株式と債券の長期リターンを示したものです。


全世界的に超長期で見ると、株式は債券に比べ大きなリターンを生んできたことが分かります。


また、株式のリターンが世界平均よりも大きかった「勝ち組」は米国以外にオーストラリア、南アフリカ、ニュージーランド、カナダなどで、逆に平均付近ないし平均以下の「負け組」は独・仏・日・伊・英・スイス・ベルギーなどでした。


競争に負けた国家


それでは、どうして超長期でみるとこういった国家間の「勝ち組」「負け組」の差が出てくるのでしょうか。


歴史を調べていきますと、長期リターンが平均ないし平均以下であった国家には共通の特徴がありそうです。


(1) 第二次世界大戦の主戦場となった国、ないし敗戦国
(2) 期間内に植民地を大きく失った国
(3) 純粋に国家間の競争力が低下した国


(1)は世界大戦の主戦場となり、国土が荒廃した国では当然に投資リターンが低下したことが考えられます。日本、ドイツ、イタリアなどはこれにあたるでしょうね。


(2)は1900年まで保有していたギニア・アンゴラ・マカオなどの植民地を失ったポルトガル、1900年前後にキューバ・プエルトリコ・フィリピン・ミクロネシア諸島を失ったスペインなどが挙げられます。これによりこの時期にこれらの国ではそのファンダメンタルズが大きく毀損されただろうと考えます。


(3)純粋に国家間の競争力が低下した国としては、かつて大陸ヨーロッパで最も早く産業化を行い、ドイツ関税同盟の鉄供給量2/3を誇る先進国であったベルギーなどはこれに当たるのでしょう(なお歴史解釈に過ちなどありましたら、ご指摘いただければ幸いです)。


勝ち残った国家


さて逆に、大きな株式のリターンを挙げた「勝ち組」は米国を含めて、(1)政治による市場への介入が少なく、(2)地政学的に比較的安定し、(3)かつその中でも国家として高い教育水準や資源・国土などの競争力を有する国でした


そしてこういった国家群であれば、一過性の悪材料(恐慌や戦争)などが生じ一時的にその市場平均が強く値を下げたとしても、堅牢なファンダメンタルズにより長期的なリターンを生み続けることが推測されます。


そしてもし一過性のバブルの高値で購入してしまったとしても、長期間待つことで、その国家の高い成長性により、やがてその高値も適正値となるのでしょう。


そしてもう一つの大事な教訓は、長期投資かつ世界各地に分散させた投資のリターンは、政治や戦争など市場以外の要因でファンダメンタルズが大きく傷つけられた国により、足を引張られるということです


つまり過去100年間VTを保有していたとすると、この「負け組」の国家群により、ポートフォリオのパフォーマンスは大きく障害されたことになります


現在の世界


それでは現在の世界各地の市場を見てみます。前回お伝えしたようにここ10年高いリターンを挙げ続けた米国市場ですが、そのバリエーションはどうなっているでしょうか。


全世界 PER19.8倍
米国 PER22.2倍
先進国 PER20.3倍
欧州 PER20.2倍
日本 PER15.8倍
エマージング国 PER15.7倍


米国の株価が頭一つ抜けていることが分かりますね。これはPBRでも同様の傾向です(米国3.2倍 vs. 世界2.3倍)。


さて、株式市場の特性としてファンダメンタルズが良好であり、その上で価格が割安であれば、長期的にファンダメンタルズと価格との乖離は必ず補正されるという特徴があります。


過去100年間の平均を見ると、米国の株式利回りは世界全体を1%/年ほどアウトパフォームするものでした。それに比べて先日お伝えした、VTとS&P 500のここ10年間の利回り差は4%/年とそれに比べてかなり大きいものでした。


過去の結果が未来を規定するとは限りませんが、過去100年と大きくかけ離れたリターン差が、今後も長期的に続く可能性は低いと思いますので、現在の市場は米国株が高く評価されすぎている、ないしそれ以外の市場が低く評価されている、或いはその両者が存在するのでしょう。


かつてのオーストラリア・南アフリカなどの「勝ち組」のように、先述の条件を満たす国家であれば、今は各国個別の事情で割安であってもやがて価値に見合った価格に収斂するだろうと私は思いますし、現状の米国一強といった状態はやがて補正され、例えばドイツ(PER18倍)やオーストラリア(PER17.5倍)などといったファンダメンタルズに優れた国家がいずれ相対的にパフォーマンスを改善させてくるのだろうと思います。


私の考えるVT以外の世界分散投資


投資対象と考える国


以上から、長期的にリターンを生む可能性が高いのはまずは米国市場だろうと考えます。


上記の利点をいずれも有し、かつ世界トップシェアという「堀」に囲まれたグローバル企業群を有すること、強大な政治・軍事力によるそのバックアップ力を持つこと、また資本主義が未だ経験していない少子高齢化といった問題に対して、移民などにより人口動態上の利点を有すると思われることがその根拠です。


しかし米国経済が傾く可能性も0ではありませんので(例えばABC兵器を用いたNYへのテロなどをブラックスワンとして考えます)、分散投資を行う考えも人によってはありだと思います。


その場合、欧州や新興国の中でも前述の基準を満たす国のETFはポートフォリオに追加しても良いのではないかと私は思います。


過去100年間の南アフリカやオーストラリアなどのような「勝ち組」国家を選び抜くことが出来れば高いリターンを期待しうると考えますし、その中でも競争に敗れる国家がいくつか生じるのも時代の常ですが、自由経済が機能している複数の国家群を選んで分散投資を行うことで、大数の法則により平均的に予想と外れた国家の分の失敗をカバーし、安全を担保しうるだろうと思います。


投資対象から除外する国


一方で日本・韓国などは深刻な高齢化の問題によって人口というファンダメンタルズが大きく毀損される可能性があり、私は大きなポジションは置きません。


そして中国やロシアなどは政治の介入により市場が大きく変動するリスクをはらんでおり、こちらは私は投資対象にしません(先のチャイナショックで株式の売りが政府から禁じられたのは記憶に新しいところです)。


VT以外のETF等による世界分散投資


従って、私がこういった世界に分散するETFをもし保有するとすれば、VTは購入せずに上記の政治・地政学リスクなどを有する国家を除外した上で、自身で世界各地に分散するポートフォリオを構築するだろうと思います。


かつて、アダム・スミスは「神の見えざる手」による資本主義での資本の適切な分配に関して論じました。


この見えざる手による上手くできたシステムを邪魔せず上手に見守ること、それが資本主義における国家の重要な役割ではないかと思いますし、それが上手く出来ている国家に私は投資したいと思っています。


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