医療現場から見る保険と日本の暗い将来 私はどうするか




医師をしていると日々思います。日本の医療をこのままの形で将来的に維持するのは不可能だと。それは一般的に他の医師も思っていることだと思います。将来的に医療、ひいては日本は大丈夫だ!と思っている医師に私は出会ったことがありません。何故でしょうか。


原因は高齢化です。基本的に病気は高齢者の方ほど有病率が高く、その治療は加齢による治癒力減退の問題から困難となっていきます。


一例を挙げます。


先日、ある90歳の男性が救急病院へ搬送となりました。以前から意識は無く寝たきりの状態でしたが、肺炎を契機に多くの臓器が機能不全になり(腎不全など)、治癒は見込みがたい状況でした。ご家族は他には代えがたい家族の命なのであらゆる手を尽くして一日でも長く延命させてほしいとのご希望でした。


主治医は体力的に限界であることをお伝えし、恐らく手を尽くしても数ヶ月も延命出来ないだろうことを伝えましたが、ご家族は何としても延命してほしいとのご希望だったとのことでした。


死生観には個々人毎に様々な御意見がありますので、ここでその可否を問うつもりはありません。ただ医療経済的な側面のみをお伝えします。


その方はICUに入室し、人工呼吸器、透析、輸液などあらゆる手を尽くしましたが、その甲斐なく一か月後に逝去されました。使用した医療費は890万円/月であったとのことです。





止まらぬ歯車


基本的に医療費は人件費と、最新の医療生物工学にかかる費用の塊です。複数人の医師、看護師、薬剤師、放射線技師、事務などの人件費がかかる病院に一日入院すればスイートルーム並みの料金がかかりますし、薬剤や手術などを行えばその分費用は指数関数的に膨張します。


現在の日本の医療保険制度では、治療費はどんな高額医療を行っても自己負担は収入にもよりますが、月25000円から140000円位となります。ご家族の思いは理解できるのですが、この保険制度下では医療費が無限にかかる現状を食い止めるのは不可能です。


そして、最終的な医療判断を決めることが出来るのは、ご家族のみです。医療サイドから治療をやめましょうと決断することは出来ません。


もちろん実臨床はこのような極端な例ばかりではありませんが、しかし高齢になると入所する老健・療養病院、その他さまざまな施設でも、全国で莫大な人件費・医療費が発生し続けています。


医療費と国庫の現状


※財務省 日本の財政を考えよう、より引用。


現在、平均年齢の上昇に伴って医療費は近年増加の一途を辿っています。




国庫においては、歳出に占める割合は33%が社会保障費です。32兆円の社会保障費は堂々の一位かつ、教育費や防衛費が5兆円程度ですから群を抜いています。


また、それを支える財源の35%は国債ということになっています。




また、バブル崩壊以降、税収は頭打ちにも関わらず歳出は順調に増加しています。その結果、借入金の総額は865兆円となっています。


借金の持続性


多くの方が言われているように、国家としての借入を今後も永遠に持続するのは不可能です。


何らかの理由で国債の金利が数%上昇に転じれば、積み上げた国債の利払いが負の複利効果で日本財政にのしかかることとなります。借入金865兆円の利払いが1%上昇すれば8.7兆円の支出が生じ、歳入が97兆円(その内34兆円が国債です)の日本には大打撃となります。今後借入金が更に増加した場合や利払いが数%上昇した場合は、デフォルトやインフレによる実質的な借入金圧縮以外の返済方法は私には思いつきません。


医療費抑制のためには、自己負担金の増額や高額医療制度の見直しが必須ですが、そのようなことを発言すると政治家は選挙で当選するのは不可能ですから、遅々として進まないのが現状です。


本格的な財政のクラッシュを経なければ、根本的に保険制度を改めるのは無理だろうと私は見ています。


船頭自ら逃げる国


日銀の職員は退職後に、退職金をドルや金に即時交換していると聞いたことがあります。恐らく在職中は職務規定でそういった取引は出来ないのでしょう。しかし船頭自ら退職後にそのような行動をとるというのは、この国の未来を暗示しているように思います。


次の景気循環の谷で日本の財政が持ちこたえるのかどうか、日々医療費が増大する医療現場からすると、私は楽観的に見ることは出来ません。


私は個人の財産はほぼ全てがドルです。(1)日本のファンダメンタルズから国際分散投資が必要と思われることと、(2)現役世代では潜在的な生涯賃金の残りは全て円建てであることが、資産の全てがドルで良いと考える根拠です。


ウォーレン・バフェットはオバマケアに対して、「医療費上昇は経済にとってのサナダムシである」と言いました。モラルの面からはどうかと思う発言ですが、経済面からはその通りだと思います。


オバマケアの縮小・離脱に臨む米国と、医療費増大が続く日本は、将来の明暗が分かれるように思うのです。


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2 件のコメント :

a-neko さんのコメント...
小塚 崇史 さんのコメント...