フォッシル(FOSL)の投資判断(4) 本質的価値の計算方法





シケモク銘柄として先日紹介したフォッシルに関して、本質的価値の計算方法を複数の読者からご質問いただきました。


多くの方に興味をもって頂き、折角の良い機会ですので、今回はフォッシルを題材としながら私の本質的価値の算出方法をお伝えしていきたいと思います。




フォッシルの本質的価値


前回までの本シリーズでは、(1)本銘柄がバフェット銘柄のように消費独占力(業界での寡占性)を有する銘柄でないこと、(2)本銘柄の清算価値は計算上概ね0であり、ネットネット銘柄のように清算価値から十分な安全域を確保できる銘柄ではないこと、そのため、(3)本銘柄においては残余期間に取り出せる現金の量が即ち本質的価値と考えられることをお伝えしてきました。


今回は実際に、本銘柄の生むキャッシュの量を計算してみましょう。


フォッシルが生むキャッシュ


取り出せる現金の量は、計算に純利益を用いると減価償却・のれん償却の影響を受けるため正確性を欠くと思います。そのため短期間でその企業が生むキャッシュの量を計算する場合に、私はフリーキャッシュフローを用いています。


ちなみにこれがバフェット銘柄のような長期投資となってくると、減価償却は設備投資を反映した現実的なコストとして当然のことながら本質的価値に含めて考える必要が出てきますので、私は純利益を用いて計算しています。ご留意下さい。


※縦軸の単位は百万ドル。


現在、本銘柄の時価総額3.73億ドルに対して、年1.82億ドルのフリーキャッシュフローが生み出されています。


そして近年業績不振に苦しむフォッシルですが、上図のように、本銘柄のフリーキャッシュフローは2016年度を底として横這いないしやや改善傾向にあります。


このキャッシュフローが今後どう推移するのかが本質的価値の計算のキモですが、本銘柄は基本的に赤字銘柄であることから、現状以上に悲観的な予測で、(1)毎年キャッシュフローが10%ずつ減じる場合、(3)毎年キャッシュフローが20%ずつ減じる場合を想定し、かつ5年間の短期間に限定して生み出す現金の量を計算してみましょう。



年10%ずつキャッシュフロー減:
1年後 (1.64億ドル) + 2年後 (1.47億ドル) + 3年後 (1.33億ドル) +4年後 (1.19億ドル ) + 5年後 (1.07億ドル) = 計 6.71億ドル


年20%ずつキャッシュフロー減:
1年後 (1.46億ドル) + 2年後 (1.16億ドル) + 3年後 (0.93億ドル) +4年後 (0.75億ドル ) + 5年後 (0.6億ドル) = 計 4.89億ドル



この結果からは5年で倒産し清算価値が0だったとしても、それまでに企業から4.9-6.7億ドルが得られる計算となり、現在の時価総額3.73億ドルから比べて大きいキャッシュが得られることになりますね。


「将来価値を金利で現在価値に割引く」ということ


さて、ここで投資の原則に立ち返って見ます。


どんな投資も無リスク資産の米国債と比べてどの程度のリターンが得られるかが重要です。というのは、仮に投資から得られるリターンが無リスク資産と同じであった場合は、わざわざリスクを冒して個別株を購入する意味自体がそもそも無くなりますからね。


そのため、将来得られるリターンから最低でも無リスク資産である米国債の利回りを割り引いた上で、将来の利益を現在価値に換算する必要があるのです。


ウォーレン・バフェットは「企業価値の計算においては、米国長期債の利回りで将来価値を現在価値に割り引く必要がある」としており、更に長期債の利回りが低いときは割引率に10%を用いると過去に発言しています。


つまり10%の利回りの元本保証の債券と比べて、本銘柄の投資がどれだけ優れるか比較する訳ですね。


このディスカウント(割引く)・キャッシュフローの考え方 (DCF法)は安全域を考えるに当たって最も重要な考え方の一つですので、投資の初心者の方においても、是非ともご理解いただければと思います。


ちなみに私は日頃統計学を扱う際に、複雑な数式を用いるものではわずかな数値の違いで最終結果が大きく異なったものになることをつねづね見ており、長大・複雑な数式は現実世界では強い歪みを生じることが多いことを実感として感じているのですが、このDCF法の優れた点はそのシンプルさにあると思います。実にオススメの方法ですよ。


では実際に本銘柄で計算してみましょう。


DCF



※単位は百万ドル。


上図が将来得られるキャッシュフローを、年率10%の割引率で割り引いたものです。


将来のキャッシュフローを経過年数分割り引いて現在価値を求め、それを5年分合わせた総和がフォッシルの正味現在価値 = 本質的価値ということになります。


ということで、上図のように計算した結果、本質的価値は概ね3.87-5.19億ドルとなります。


今回は私の購入価格が3.24億ドルでしたので、年利回り10%の債券に投資した場合と比較して割引き、かつCFが年20%ずつ減少する見積もりの仮定で得られる3.87億ドルのリターンと比べてもなお、安全域は20%程度確保できていることになります(本当は33%以上の安全域が欲しいのですが高値相場でなかなか見つけにくいのが現状です)。


主観が入らざるを得ない本質的価値


ここで読者の方では、「これでは、企業の本質的価値は将来の利益見込みをどう仮定するかによって変化するじゃないか」と思われる方も居られると思います。


実はそのご指摘はもっともなのです。


バフェットも「本質的価値の見積もりはとても難しい。誰が行っても同じものにはならないしね」と発言していますし、ある程度恣意的にならざるを得ない部分も大きいなと、私もつねづね思っています。


キャッシュフローが-20%/年で減じた場合以外にも、例えば+20%/年でV字回復した場合、+0%/年で横這いとなった場合などと、どういう状況を考えるかにより大きく変わるのがこの本質的価値になります。また今後の決算ごとの企業業績によってもその時々の本質的価値は大きく変動してくることになります。


つまり今後の状況が完全に見渡せない以上、その企業価値も大きな幅を持つということですね。


しかしながら本企業の場合、忘れてはならないのは基本的な業績が赤字の企業ということです。それ故、見積もりの中で最も保守的なものを採用する必要がありますし、ネガティブサプライズでなお業績の下振れを来す可能性も購入価格に織り込んでおく必要があると思います。


そのため今回の場合は、(1)キャッシュフローが年20%減、(2)5年後に倒産、(3)倒産時の企業価値は0という厳しい条件で本質的価値を計算しているのです。


実際はフォッシル程の有名企業であれば清算価値が0ということはまずなく(業績が下落してもどこかの企業が買収する可能性が大でしょう)、5年後に倒産というのも現状プラスのキャッシュフローからして恐らく早すぎる見積もりです。


今回の投資



※11-12月のフォッシルのチャート。赤丸が私の購入時点、緑が売却時点。


さて、私の12月上旬の購入直後から本銘柄は急激な株価上昇を認め、時価総額3.24億ドルから3.9億ドルに上昇しました。そのため早期ながら3.87-5.19億ドルという私の見積もった本質的価値への回帰を得たため、3週間の保有で20%の利益を得て売却しています。


ちなみにシケモク銘柄の場合、バフェット銘柄のように消費独占力を有する銘柄と違い、時により複利でその内在価値が増加する銘柄ではありません。現在はキャッシュリッチないしキャッシュフローリッチですが、その将来は不安定なビジネスモデルにより不確定なのです。


従ってある意味、長く持つほど損をする可能性がある銘柄ともいえます。


ですので本質的価値まで標準回帰を認めた場合は早急に売却しますし、極端な話、購入翌日に5倍まで価格が上昇したとすれば即日売却することとなります。


実際にグレアム投資をメインとして投資を行う場合は回転率が年100%を超えること(保有銘柄が全て入れ替わること)もありますし、とにかく低空飛行の企業に狙いを絞って、辛うじて吸えるシケモク一服をチェーンスモークし続けることが、シケモク投資の一面なのです。


もし仮に次回以降の決算で業績が上向けば、株価が上値を追い続ける可能性はありますが、シケモク投資のセオリーから言いますと、今後の業績改善を保証する消費独占力が無く、あくまで現時点でのキャッシュフローを頼りに投資を開始した銘柄である以上、安全域が保てないこれ以上の上値追いは私の守備範囲外ということです。


本銘柄の今後


今回はあっという間に株式を売却しましたが、このような銘柄に付き物の高いボラティリティは、時に投資の大きな味方になってくれます。


というのも近いうちに再度価格が下落し、また同じような価格帯で本銘柄が購入可能となれば、その時は再購入を検討することとなるでしょうね。


そして、このように本質的価値を保守的・悲観的な見積もりのキャッシュフローから求め、分散投資下に投資を行うことが、本銘柄の安全性を二重に担保することになるかと思います。


バリューには困難な市況ながら、チャンスがあればこういった個別株取引を本年も積極的に行っていきたい、私はそう思っています。


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