PER (株価収益率: Price Earnings Ratio)という数字の扱いに困ったことは無いでしょうか。
株式の割高・割安を示す指標として汎用されますが、いろいろな本を読んでも、どの位ならば適正といった文言は無く、特に初心者の内は解釈に困る数字ではないかと思います。
一般的なPERの解釈
日本証券業協会の説明を見てみます。EPSに対し株価が何倍まで買われているかを表したのがPERです。その高低で会社の価値を判断します。同じ業種の平均PERが30倍で、この会社の現在のPER20倍が低過ぎると判断されるなら、PER30倍の水準が適正ということになります。またPERは客観的な価値基準を示すものではなく、あくまでも同じ業種の収益状態や、将来の収益予測等と比較して判断する相対的な基準です。
(1)同じ業種内で比べてその銘柄のPERが低ければ割安と判断する、(2)PERからは相対的な評価しかできないため参考値に留めるということですが、ここからは今一つ適正なPERのイメージはつかめない印象です。
その他にもいくつかマニュアルを読んでみましたが、残念ながらはっきりとPERの使用法に関して記載されたものは見かけませんでした。
今回は、バリュー投資の立場からPERの判断方法を考察していきます。
バリュー投資のPERの解釈
PERは以下の公式で表されます。株価 = PER (株価収益率) × EPS (一株当たり利益)
この数式からは、PERは現在の利益から見て何年先の利益まで株価に織り込んでいるのか、その期待度を表す数字とも言えます。
またここから、1/PERは現状の企業利益からみた期待年利回りと表現されます。つまり、PER20倍ならば期待年利回り5%、PER25倍ならば期待年利回り4%で利益を出し、その企業価値を増加させるということです。
さて、株式を考えるに当たっては、株式以外の資産クラスとの利益率の比較が重要になります。債券や不動産など様々な資産クラスがありますが、その利回りの大もとを決定づけるのは政策金利(FF金利)です。
即ち、政策金利が上昇する = 無リスク資産である債券利回りが上昇しその魅力が増加する = 相対的に株式の魅力が落ち株式のPERに下落圧力がかかる、ということです。
金利上昇局面では、徐々に無リスク資産の債券(特に米国債)の魅力が増すため、理論的には、株式利回り≧債券の利回り+α、でなければ投資対象とはなりません。
過去の市場の金利上昇局面では、市場平均(S&P 500指数)の期待利回り < 債券の利回りが持続したところで、株式への資金流入が続くことが不可能となり調節局面やバブル崩壊を迎えてきました。
市場平均PERから見ると、ITバブル時には、株式期待利回り3% < FFレート6.5%となり、リーマンショック時には株式期待利回り4% < FFレート5.25%となっています。即ち、バブルでは、株式期待利回り<米国債の利回りが明らかであるということです。
こちらに関しては「適切なキャッシュ・債券の保有率に関して」のシリーズで詳しくお伝えしていますのでよければご参照ください。
今後の市場がバブルに向かうかどうかは分かりませんが、金利上昇によって確実に株式への資金流入は狭まり、いつかは株価の下落圧力がかかることとなります。そして個別株もその圧力から逃れることは出来ません。
個別株それぞれの業績でもPERの水準は異なりますが(例えば人気が集まるグロース株では市場平均に比して高いPERを示すでしょう)、市場全体としてはそういった圧力がかかることになります。
私は、市場平均PERで言うと、例えば1-2%の低金利では株式への投資に2%程度のリスクプレミアムを含めるとしてPER20-30、4-5%程度の金利ではPER14-16程度が適正な範囲と考えます。
つまり、総論的にはPER15-20までの範囲で株式の購入を行うことで、3-5%程度の金利までは耐えられる、金利に対しての安全域を有することになると私は考えます。
個別株のPERと株式購入
さて市場平均とは違い、個別株の投資判断においては市場金利を始めとする市況以外に、企業自体の業績、そしてそれに対する市場心理で大きくPERは変動します。特に後者によるレミングの群れにも似た群集心理で、株価は適正な範囲から大きく逸れることがありますので、バリュー投資家としてはPERに踊らされない本質的価値と安全域の評価が非常に重要となります。
私が考える適正なPERは、金利にもよりますが、(1)PER15-20倍の範囲を満たし、かつ(2)個別株に対してはその銘柄のブランド価値による最低予測利回り10%、ないし株価と清算価値の差による安全域が保てる水準、ということになります。
なお、(2)を満たすのは多くの場合でせいぜいPER20倍から25倍までの間ですので、つまり私の基準では15-20倍までが適正なPERと考えます。
バフェットとPER
かつて、ウォーレン・バフェットは購入する銘柄のPERは15倍以下だと言いました。最近のバフェットの新規の購入銘柄を見ますと、PER20倍を超える銘柄ではほとんど大きな投資は行っていません。恐らく金利に応じてもその購入基準を変化させているのでしょうが、PERの観点から言いますと、この15-20倍以下という水準での買い付けには私も同じスタンスです。さて、次回のこのシリーズではPERとならぶバリュー投資の指標、PBRを考察していこうと思います。今シリーズではPER、PBR、ROEなど主要な株式の指標を一つずつ考察していこうと思いますので、是非お付き合いいただければ幸いです。
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