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今回は石油セクターの雄、エクソン・モービルを考察していきます。
エクソン・モービルは石油メジャー最大手の企業であり、スーパーメジャーと呼ばれる6社の一角を占めます。かつてジョン・ロックフェラーが1870年に創設したスタンダード・オイルの流れを汲む企業で、世界の石油をほぼ寡占したセブン・シスターズと呼ばれる国際石油資本の一つでした。
第二次世界大戦後から、70年代までは世界の石油のほぼすべてを寡占したセブン・シスターズでしたが、中東諸国の民族主義の高まりとOPEC結成を経たオイルショックにより、その影響力を次第と弱めることとなっています。そのため、90年代から合理化を進め合併を繰り返した結果、現在はエクソン・モービル、BP、シェブロン、ロイヤル・ダッチ・シェルの4社に統合された歴史的背景があります。
70年代には20社程度しか手掛けることが出来なかった石油の蒸留事業も、2000年代には200社以上が参入することとなり、業界自体が激しい競争にあります。
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※サイト チャートパークより引用
また、近年のシェールオイルの台頭による強い原油価格の下落、採算性の低下によって、石油業界全体に逆風が吹いています。
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※XOM 直近5年間のチャート MSNマネーより引用
エクソン・モービルも、往時の価格支配力は既になく、勢いを落とした同銘柄は市場からも売りを浴び、現状、株価は低いレベルに留まっています。こういった背景を考えると、安い株価もバリュー投資の好機なのか、バリュートラップなのか、悩む人も多いと思います。
本シリーズではエクソン・モービルの今後の業績への私見、また投資する場合の投資根拠をお伝えします。
それでは、同銘柄の決算報告書を読んでいきましょう。
同社の主要部門は大きく4つに分かれます。
1. Upstream 原油の探鉱・開発・採掘などの川上部門
2. Downstream 石油の精製・販売などの川下部門
3. Chemical 石油化学製品
4. Corporate and Financing ファイナンス部門
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※エクソン・モービルの年次報告書 2016より引用
2016年の年次報告書では純利益の内、殆どをDownstreamとChemicalが占めています。Upstreamは純利益全体のわずか2.5%程度を占めるのみです。
それに反して部門毎の支出(Capital and Exploration Expenditures)、投下資本(average capital employed)ではUpstreamは頭一つ抜けた高い水準です。
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利益推移から見ていきますと、原油価格が好調だった2014年まではUpstreamは同社の利益の大部分を生んでいますが、2015年以降は強い下落に転じ、2016年にはUpstreamの利益はほとんど消滅してしまっている状況にあります。
競合他社に比べ、Downstream部門など他部門が比較的堅調なエクソン・モービルでも業界全体に吹く逆風のトレンドから逃れることは出来ていません。
それでも、同時期に赤字決算を出したシェブロンやBPに比べると優れた利益体質を持っており、原油高の時期からDownstream部門に注力していた同社のリスク対応力は評価されます。
それでは財務諸表を見ていきます。
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EPSは2014 → 2015年にかけて激減しています。その中でも配当は何とか減配せずに維持していますね。
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ROEとROAともに凄まじい減少です。2015年を境に別の会社になったのではないかと思わせる減少ぶりです。
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キャッシュフローでは、同社の業務の性質上、どうしても設備投資を始めとした経費がかさんでいることが分かります。
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2014年までは堅調なROE・ROAにより積み増していたBPSもこの苦境の中、切り売りせざるを得ないようです。徐々に減少へと転じています。
さて、同社への投資を考慮するにあたって私は安全域をまず評価します。しかしこの銘柄の場合、普段用いるバフェットの投資手法は用いることは困難です。
バフェットの投資手法は、(1)高いブランド力・寡占力により将来も過去と同様の利益が見込める銘柄に対し、(2)一過性の問題が起こったときに買い付け、(3)将来的にその銘柄の株価が標準回帰することを待ち、利益を得る手法です。
現在、1970年代までの石油を寡占していた市況とは異なり、シェールオイルというゲームチェンジャーの出現により、私は同社を始めとしたオイルメジャーによる市場の価格決定力は既に失われていると考えます。シェールオイルを始めとした技術革新の問題は一過性ではなく、今後も継続する問題と思いますので、オイルメジャー各社及び産油国にとってはバランスシート上の頭痛のタネになる公算が大きいでしょう。
そのため同社の業績、特にUpstreamは、コモディティである原油価格により大きく振り回されることとなるでしょうし、またDownstreamなど他の部門だけでは他社と大きな差をつけることは困難でしょう。
従って、往時よりもブランド力が強く毀損された銘柄と考えますので、この場合の安全域の評価はベンジャミン・グレアムの方法による、将来を最大限に悲観的に見積もった場合の価格を用います。
次回は、グレアムの方法を用いて、同銘柄の本質的価値、特に清算価値の考察を行います。
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