エクソン・モービル(XOM)の投資判断(2) 清算時の企業価値がマイナス? 難しいシケモク拾い



前回は、エクソン・モービルの業績低迷の原因が、(1)オイルメジャーの寡占力と価格決定力の低下にあること、そして(2)シェールオイルの台頭によることをお伝えしました。


そのため、同銘柄では今後の安定した成長を保証する「堀(=ブランド力・寡占力)」の存在が今後は見込み難く、バフェットの手法による投資法が用い難いこともお伝えしてきました。


今回は、ベンジャミン・グレアムの投資手法を用いて、同銘柄に投資する場合の安全域を考察していきます。


現況、同社のバリュエーションはPER 28.5倍、PBR 1.86倍となっています。


グレアムはバリュエーションに対し、かつてこう述べました

(1)大まかには割安とするPBRは0.66倍以下
(2)企業ブランドに支払うPBRは1.2倍まで
(3)PER×PBRは22.5倍以下(PER15倍・PBR1.5倍に対応)


しかし彼が活躍した大恐慌後とは異なり、現在は歴史的な低金利環境であり、往時の高金利と比べると(彼が活躍した時代は米国長期債の利回りは3-6%、現在の利回りは2.7%)、私はこういった基準は少し緩和して考えても良いと思います。


グレアム投資を用いる場合、大まかには、十分に大きな大企業であればPBR1.2までは私は投資対象として考慮します


まだPBR1.86と購入を検討する価格よりは高い水準にありますが、同銘柄の場合は、(1)石油価格の強い下落時や、(2)相場全体の調節局面の時に、PBRは1.2倍に近づく可能性はあるでしょう。


私は、上記のようにPBRで大まかにその銘柄の割安さを判断してから、購入を検討する水準に近づいた場合に、簿価をより詳細に計算することにしています。


さて、賃借対照表を見ましょう。



※エクソン・モービルの年次報告書 2016より引用


ここからは、グレアムの著書、「賢明なる投資家」の計算方法を用いて、いわゆる企業の清算価値を評価していきますね。


Asset(資産)の項目は、Cash and cash equivalents(現金及び現金同等物)、Notes and accounts receivable(売掛金・受取手形)、Inventories(棚卸資産)、Other current assets(その他の流動資産)から成ります。


現金は額面の100%、清算時に即時戻ってこないリスクがある売掛金と受取手形は80%、棚卸資産はその企業の保有する製品の性質によりますが、同社ではCrude oil, products and merchandise(原油及びその製品と商品)、Materials and supplies(その他材料と用品)といった換金価値がある程度見込めるものであることから、額面の66%で計算します。またOther current assetsは額面の25%で計算します。


これにより流動資産の清算価値は31046(100万$単位)となります


これに長期資産を加えていきましょう。


長期資産には、(1)investment, advances and long-term receivable(長期投資・長期債券)、(2)Property, plant and equipment, at cost, less accumulated depreciation and depletion(有形固定資産)、(3)other assets, including intangibles, net(その他無形資産)があります。


(1)は取得額と現在の価格のうち、低い方が記載される決まりのため、現在の価格を正確に反映していない可能性があります。額面の50%で計算していきます。


(2)の有形固定資産は同社の場合は石油プラントや洋上施設、不動産などになりますが、倒産時には古い旧式設備も含めたこれらは額面通りの回収は不可能です。そのため額面の15%で計算します。


(3)は特許権・ブランド名・商標などになりますが、倒産時の価値下落を織り込んで15%で計算します。


これにより長期資産の清算価値は55620(100万$単位)となります


従って同企業の保有する資産の累計は流動資産 + 長期資産 = 86666(100万$単位)となります



そして、負債に関しては簿価そのままの額で計算します。


Total liabilities(総負債)をそのまま用いますと、同社の清算価値は - 69818(100万$単位)という残念な結果が出ました。


上述の計算方法から分かるように、グレアムの評価方法では、現金や現金同等物を額面の100%、また棚卸資産を66%と比較的高く評価する一方、固定資産やのれん代は額面の15%でしか評価しません。こういったスタンスから見えてくるのは、彼がいわゆる「現物」、つまりキャッシュや棚卸資産などの換金が容易な資産以外は殆ど信用しない考えを持っていたことです。


そして同社のように、資産における固定資産の割合が大きい企業、また負債が多い企業では清算価値はほとんどないものと判定されるのです


さて、一般に株価を規定するのは、業績上昇時には主にEPSの伸びですが、業績下落時は次第とBPSが意識されることとなります。更に業績が傾いてきて倒産が意識されてくると、株主が現実に意識すべきは先のような「現物」をいくらもっているのか、ということになります。


業績低迷株を保有するにあたって、「現物」を最重視する、最悪の状況を考えた投資を行うグレアムの方法は、大恐慌を潜り抜け無数の業績下落銘柄を相手にしていた中で生まれたものだなと思いますし、やはり業績低迷株(特に小型株)を買う場合は重要な考え方だと思います。


ウォーレン・バフェットがグレアムから教わったのは、「50セントで買える1ドル札を見つけなさい」という戦略だったそうです。


特に、元来「堀」を持たないコモディティ分野において、安全性の面でこの戦略は、安い購入価格をもって「堀」の代替役となりうる点で非常に重要な概念です


そして、彼の時代から100年を経た現代でも、用いるジャンルを選べば、この戦略は時を超えて有効だろうと私は思うのです


最後に追加です。同社は35年連続の増配銘柄として有名ですが、私はそれを投資根拠とはしません。増配は過去の業績の結果であって、業界環境が変化した現状、将来の業績を保証するものではない故です。あくまでも重視するのは、企業のファンダメンタルズと購入する株式の価格によって、十分な安全域を保てるかどうかだと考えます。


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