PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)を、皆さん投資に活用していらっしゃるでしょうか。
現在の米国市場は強気相場が長年に及び、NYダウやS&P 500指数も日々高値を更新し続けています。こういった好調の相場では、売上高やEPSの成長率といった将来の利益見込み、そしてPERによりそのバリュエーションが評価されることとなりますので、PBRは往々にして忘れ去られることとなります。
今回は、好況では忘れられがちなPBRに関して私見をお伝えします。特に、バリュー投資の古典、ベンジャミン・グレアムの「賢明なる投資家」を参考に考察していきますね。
一般的に言われるPBR評価方法
まずは一般に言われているPBRの評価方法を見ていきましょう。日本証券業協会の説明を見てみます。
・PERが会社の収益力を判断する指標であるのに対し、PBRは会社の資産内容や財務体質を判断する指標です。
・PBRが1の場合、株価と一株当たりの解散価値が一致しています。もし会社が倒産すれば投資金額はそのまま戻ってくる理屈です。つまり投資金額のリスクはないことになります。そのためPBRが1を下回った場合は割安と評価され投資価値が高まるケースも多く見られます。
(1)PBRは企業の解散価値である、(2)PBR<1の場合は割安である、とのことです。
グレアム投資の視点から見ると、この評価方法には2つの問題点があります。
一つ目はPBRが反映するのはあくまで帳簿に反映されている企業自身が判定した簿価であり、清算価値ではないこと、二つ目に清算価値をバランスシートから算出するに当たっては、中古設備やのれん代など企業の清算時には価値を減じる資産を織り込んでその価格を評価する必要があるため、PBR1倍程度ではとても割安と言える基準ではないことです。
バリュー投資のPBR評価
さて、かつてグレアムはバリュエーションに対し、かつてこう述べました。
(1)大まかには割安とするPBRは0.66倍以下
(2)企業ブランドに支払うPBRは1.2倍まで
まず(1)を見ていきます。
バリュー投資に当たってPBRを見る際、清算価値を頭に置いておく必要があります。そして前述のように清算価値は、倒産時の評価を織り込んで算出する必要があります。「賢明なる投資家」での清算価値の計算は下記です。
・現金は額面の100%
・清算時に即時戻ってこないリスクがある売掛金と受取手形は80%
・棚卸資産はその企業の保有する製品の性質によるが額面の66%前後
・有形固定資産は額面の15%
ここではキャッシュなどの「現物」を重視する一方で、額面通りの清算価値が得られにくい有形固定資産などはその価値を低く見積もることとなります。
そしてこの基準で実際に計算を行う場合、清算価値>企業価格となる銘柄の多くは、PBR<0.5位の銘柄です。
そのため、PBR<0.66という値はまずバリュー投資を行う場合の銘柄スクリーニングに適する指標と私は考えます。
そしてPBR<0.66の銘柄で、より詳細な清算価値を算出し、その銘柄の安全域を私は評価するようにしています。
次に、(2)企業ブランドに支払うPBRは1.2倍まで、を考えていきます。
一般的に、米国を代表するグローバル企業(例えばコカコーラやP&Gなど)は、非常に優秀なROE・ROA・売上高利益率を誇り、そのブランド力も抜群です。仮にこういった銘柄が恐慌時にPBRが低い水準に低下したとしても、財務基盤がより脆弱な二流企業と同じPBRの基準で扱うべきでないと私は考えます。
つまり、収益力が平均的な企業であれば大まかにはPBR<0.66であれば割安と考えられますが、小規模であったり、収益力が平均より劣る企業であればPBR<0.3-0.4程度と、より大きな安全域が必要となるでしょう。そして逆に財務内容や収益力が十分な一流企業であればPBRが0.66以上であっても、PBR1.2倍程度までは割安と判断しうると考えます。
特に彼が活躍した大恐慌後とは異なり、当時の高金利と比べ、近年の米国は歴史的な低金利環境です(当時の米国長期債の利回りは3-6%、現在は2.7%)。
私はその点も踏まえ、グレアム投資を用いる場合、十分に大きな大企業であればPBR1.2までは私は投資対象として考慮しています。
いつかくる不況への備え
さて、あなたが割安銘柄を購入した場合の最悪のシナリオをシミュレーションしてみましょう。
株価を一般に規定するのは、好況時には主にEPSの伸びですが、業績下落時は次第とBPSが意識されることになります。更に業績が傾いてきて倒産が意識されてくると、あなたが現実に意識するのは倒産時にキャッシュなどの「現物」をいくらもっているのか、ということになります。
その時にPBR、そして清算価値は意味を持ってくることとなるのです。
業績低迷株を保有するにあたって、PBRや、そして「現物」に重きをおいた清算価値を重視する、最悪の状況を考えた投資を行うグレアムの方法は、大恐慌を潜り抜け無数の業績下落銘柄を相手にしていた中で生まれたものだなと思いますし、やはり業績低迷株(特に中小企業)を買う場合は重要な考え方だと思います。
好況に沸き多くは高値をつけている米国市場ですが、Amazonショックにおびえる小売り・食品セクター、そしてシェールオイルに脅かされるエネルギーセクターなど、いつの時代も割を食う産業はあります。
私はグレアムの投資方法はジャンルを選べば十分現代でも通用する考え方と思っていますし、こういった割安銘柄への投資に当たり、投資家を守るプロテクターとしてPBRを活用できればと考えます。
関連記事です。
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実際にグレアムの手法を用いて年次報告書から清算価値を計算した銘柄になります。よろしければご参照下さい。
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