
ソフトバンク・ビジョン・ファンドというファンドが米国市場でも話題となっています。
ソフトバンクの孫正義氏と、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)によって設立され、主な出資者はPIF 450億ドル、ソフトバンク 250億ドル、ムバダラ開発公社(アラブ首長国連邦の政府系投資会社) 100億ドル、Apple 10億ドル、クアルコム 10億ドル、Foxconn 10億ドルなどであり、その規模は10兆円超とされます。
さらに同社は、来年度、20兆円規模にもなる第2のファンド設立を目論んでいるとの構想を発表し、予定通りに事が運べば資金は3000億ドルに達することとなります。
並外れた資金は並外れた結果を生むか
ロイター(2017年10月24日)によると、2016年のベンチャー企業への投資額は、世界全体で1270億ドル規模と報告されています。3000億ドルという額からは、市場規模をも上回るソフトバンク・ビジョン・ファンドの資金力の大きさが分かりますね。
それではビジョン・ファンドの投資戦略に関して、同ファンドの説明文書から引用します。
本ファンドはイノベーションを生み出す可能性のある企業や、プラットフォーム・ビジネスに対して大規模かつ長期的な投資を行うことを目標とします。本ファンドは上場・非上場を問わず、新興テクノロジー企業から数十億ドル規模の大企業まで投資を行います。
以上を要約しますと、①新興テクノロジー企業に、②市場規模を超える可能性のある多額の資金を、③長期的に投資するのが、このファンドの投資方針と考えられます。
ファンドの現状
現状の同ファンドの投資を見てみましょう。

※1 米国、共用オフィス運営
※2 製薬向け調査・分析サービス
※3 米国、屋内植物工場
ファンド方針に沿って、あらゆるベンチャーに多額の投資を行っていますね。その他にも量子コンピューターや製薬分野に出資を検討しているとのことです。
ざっと見ただけでも、既に600億ドル程度は出資の方針となっており、既に初期資金は相当額を使用したと推測されます。孫正義氏曰く、10兆円(880億ドル)程度では資金が足りない。Vision Funds 2, 3, 4を2-3年毎に設置していきたいとのことです。
グロース投資の雄
それでは、上記の投資先のうち判明しているバリュエーションを見ていきましょう。ARM: PER50倍
NVIDIA: PER64倍
まさにこれぞグロース株と言える、高成長と期待を織り込んだ価格となっています。
さて、それではここで考えてみます。ベンチャー企業市場の1300億ドル程度の規模の市場において、3000億ドルの資金を運用すると何が起こるでしょうか。
結果は容易に想像がつきます。大量の資金が、テクノロジー市場の平均バリュエーションを極めて高いレベルに押し上げるのでしょうね。
低金利とオイルマネーの残滓
ソフトバンク・ビジョン・ファンドの資金は成長性と低金利による豊富な資金力を背景とした各ハイテク企業、石油依存体質からの離脱にあえぐサウジアラビアなどが主体です。一般論から言いますと、これから進行するFRBの利上げに伴い、消費者の消費抑制と、企業の資金調達コスト増加が生じます。従ってハイテク企業の資金の持続性は、各々その業績が維持できるかどうかに依存するでしょう。
またサウジアラビアなど産油国は、かつて寡占により絶大な資金力を誇ったOPECの影響力が既にシェール革命によって過去のものとなりつつあり、今後もその資金力が維持できるかどうかは、私は個人的に疑問を感じます。
過去は繰り返す
無限の資金・無限の成長を当てにするグロース投資は、鉄道・航空機・自動車のテクノロジーバブル、そしてITバブル、金融工学バブルとでも言うべきリーマン・ショックと、いつの世も人々を投機に駆り立ててきました。
そして歴史の結論として、常に企業の価格はその価値に見合った水準に、最終的には落ち着いています。
恐らく、しばらく(2-3年程度)は華々しい成果をグロース投資は挙げる可能性もあると思います。そしてその業績に人々は注目し、次第とバリュー投資家でもそれにつられてグロース投資を行う人も出始めるでしょう。更には、一般人も次々と投資に参入することになると思います。
そして好況の高値市場では、バリュー投資家の活躍は影をひそめ、グロース株への投資が実際にバリュー投資をアウトパフォームするでしょう。かつて、ウォーレン・バフェットでさえも、ITバブル前やリーマン・ショック前は市場平均をアンダーパフォームしていたのは記憶に新しいところです。
しかし、最終的には破綻に至る可能性が高い賭けに乗ることは、そのリスクを考慮すると私は行うことは出来ません。バリュー投資家が成すべきこと、それは歴史に学ぶことであり、適正な価格で株式を購入すること、そして企業の成長を待つこと、ここに尽きると考えるのです。
こういった景気循環の風物詩ともいえる光景を見ておりますと、恐らくはバリュー投資にとっての収穫の秋はもう終わり、冬がそろそろ来るのだろう、そう感じています。
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