今回は、まずは(1)から考えていきます。
迫るEVの脅威
バリュー投資の投資対象として適切かどうかを考えるに当たり、避けて通れないのが、EVの台頭によるトヨタを始めとした従来型の自動車産業への影響、またカーシェアの普及による自動車販売減ですね。まずはEVから考えていきましょう。
自動車の現在

EVの販売台数はバッテリー車では、年40万台強となっていますね。
年間の世界自動車需要が9500万台(2016年)ですので、このEVの販売規模は、未だ世界販売台数の1%にも満たない規模に過ぎません。
EVの今後

EVの今後の普及に関してはさまざまな予測があります。上図はその一例ですが、ここで見て頂きたいのはEVが飛躍的に増加しているように見えるその実、EVの販売台数は暫くはせいぜい年50万台程度と、従来の自動車に比べまだまだ小規模ということです。
そして、2020年にEVが自動車全体に占める割合は1%以下であることが予想されています。
この予想販売台数が大幅に上振れしたとしても、ここ数年はEVの実績が直接的には従来型自動車に大きな影響は及ぼしえないだろうことが予想されます。
EVの長所と短所
EVの長所
EV普及のメリットとしては以下が挙げられています。
・化石燃料に比べ燃費に優れる
・CO2排出が少ない
・内燃機関に比べ技術的に容易で参入障壁が低い
・自動運転システムとの親和性が高い
・静音性
順に考えていきます。
EVが燃費に優れると言え、自動車本体の価格が高ければEVを購入する人はあまりいないでしょう。その価格は今後どうなるのでしょうか。

様々な予測があるものの、多くの予測では上図のように大量生産と技術革新によりバッテリーの価格が次第と下落し、従来型自動車との価格差は次第と縮小、ないし逆転すると予想されています。
しかし現在の価格は政府からの補助金あってこそのものですし、恐らく販売台数の増加につれて補助金は段階的になくなるでしょうから、バッテリー価格の下落は完全でないにしても打ち消されるでしょうね。この将来の正確な予測は困難です。
では次に、CO2排出量が少ないという点はどうでしょうか。

CO2削減の問題に関しては、EVに用いられる電気そのものの発電にかかるCO2排出を把握することが重要です。
上図を見ますと、中国やインドでは火力発電に頼る比率が大きく、フランスやカナダなどではCO2フリーのエネルギー源の比率が高いことが分かります。

そのため、各国でEVを用いた場合に、フランスでは従来型自動車に比べCO2削減効果は90%であるのに対して、中国ではわずか15%の削減に過ぎません。
本当の意味でCO2削減を行うには、風力や太陽光などの発電への切り替えも同時に行う必要がありますが、シェールオイルの出現による原油安というライバルがここには立ちはだかり、コスト面の有利性が将来も保ちえない可能性から、その将来を読むのはたやすくはなさそうです。
また、増加するEVに伴い電力需要と電力の単位当たりコストは確実に増加することとなります。発電量が現状のままであればコスト増によって、EVの現状の燃費が保てるかどうか、この将来も不確かです。
EVの短所
逆にEVの問題点は下記が挙げられます。
・航続距離
・高温・低温時の信頼性の低さ
・充電時間
・充電インフラ
こういった問題はイノベーションの発展により、次第と解決するだろうと予測されており、実際にいずれそうなるだろうとは私も思いますが、それがいつになるか、そして特に上述のコストの問題といつ両立可能となるのかは難しい問題です。
カーシェアの脅威

もう一つの脅威、カーシェアリングはどうでしょうか。統計データによりバラツキがありますが、2015年時点でのカーシェアリングに使用されている車両数は85000 - 100000台程度であったようです。
予測では2021年のカーシェアに用いる新規車両購入は年80万台に及ぶとされており、2024年には市場規模は2016年の11億ドルから65億ドルに成長すると予想されています。
しかし、EVと同様に年間9500万台の自動車販売台数からすると、こういった予想が多少上振れしたとしても、まだまだ規模は小規模といってよいと思います。
私の考え
以上を総括しますと、(1)恐らく長期的にはEVやカーシェアは増加してくるだろうがそこには様々な変数が関わるためその正確な時期は誰にも分からない、(2)しかし5年位の期間であれば従来型産業の優位性は覆らないだろう、というのが私の見方です。
現在の自動車株の価格が抑えられているのはテスラの急激な伸長(かつて一度も黒字を出していないテスラが異常な株価高騰を続けるのはバブルといって差し支えないかと思います)と、従来型自動車産業への懸念などの悪材料が相まって、テスラを始めとする新興産業への資金シフトを起こしたことが大きな影響を与えています。
本来現在ほどの好況下であればもう少し上値を追う展開だろうと思われる自動車産業にあって、業界全体の株価が低いレベル(PBR 1倍程度)に抑えられており、こういったファンダメンタルズと関連が無い株価の低迷はバリュー投資としては好機です。
ウォーレン・バフェットがゼネラル・モーターズを安値で購入したのも、こういった点から私は納得していますし、株式の購入価格が見合えば是非私も自動車関連銘柄を検討したいと思っています。
それでは次回は、トヨタ自動車の株式を購入する場合に割安と思われる水準に関して考察していきます。
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