トヨタ自動車(TM)の投資判断(3) 清算価値、そしてブランド価値の評価法



今回はトヨタ自動車を購入する場合に、割安と思われる水準に関して考察していきます。




グレアム投資


清算価値


まずコモディティに属する銘柄を扱う場合に、大変重要となる清算価値を計算していきます。以下はベンジャミン・グレアムの、賢明なる投資家に記載された方法に準じて計算を行っていきますね。



※2017年トヨタ自動車 IRより引用。


現金は額面の100%、清算時に即時戻ってこないリスクがある売掛金と受取手形は80%、棚卸資産はその企業の保有する製品の性質によりますが、同社では自動車在庫やパーツ、鋼材など換金価値がある程度見込めるものであることから、額面の66%で計算します。またその他の資産は額面の25%で計算します。


これによる流動資産の清算価値は13296620(単位は100万円)となります


これに長期資産を加えていきましょう。


有価証券・関連会社への投資は簿価の66%、土地や建物、工場といった有形固定資産は倒産時には額面通りの回収は不可能ですから簿価の15%で計算します。


これにより長期資産の清算価値は10268000(単位は100万円)となります


従って同企業の保有する資産の累計は流動資産 + 長期資産 = 23564620(単位は100万円)となります





そして負債はそのままの額で計算します。


これによる同社の清算価値は - 5774791(単位は100万円)という結果になりました


マイナスの清算価値


さて清算価値がマイナスという残念な結果が出ましたが、これをどのように考えればよいのでしょうか。


グレアムがかつて購入対象としたネットネット株は、企業の豊富なキャッシュと少ない負債、それにも関わらず市場の悲観により安値で放置された株価が揃って初めて実現します。


そして(清算価値 > 時価総額)の水準を満たすまで株価が安値となった場合に購入を行うのがネットネット株の戦略です。


ですが実際にグレアム投資を行った方は経験されたと思いますが、この水準を満たす銘柄の多くはPBR 0.5倍以下です。


また(清算価値 - 時価総額)において大きなマージン、即ち安全域が取れる銘柄というとPBR 0.3倍位まで価格が下落しなければあまり見られないのです。


トヨタ自動車の場合、現在のPBR 1.13倍とまだまだ高値であり、この清算価値と現在の価格差が、すなわちトヨタ自動車のブランド価値に支払う「のれん代」ということになります。


ではトヨタ株を購入する場合の、適切なのれん代はどの位なのでしょうか?


ブランド価値


グレアムはブランド価値に支払う価格はPBR 1.2倍までとかつて著書の中で発言しています。またバフェットも以前PBR 1.2倍以下であれば割安と述べました。


私もこの水準には同意しています。





上図はトヨタ自動車のPBRの推移です。


PBR 0.8 - 1.4倍の間で概ね推移しており、リーマンショックとその後の業績低迷期にはPBR 0.8倍程度の安値を付けましたが、そこを底値としていることが分かります。


このように景気後退期も赤字を出した既往がほぼ無く、規模が十分以上に大きい一流企業であれば、実際の倒産リスクは殆どないと考えられ、倒産の懸念を背景にPBR 0.3-0.5倍といった水準まで売り込まれることは恐慌の極期を除きほぼありません(なおトヨタはリーマンショックこそ赤字を計上しましたが、それまでは過去57年に渡り黒字企業でした)。


そのため、こういった規模や財務基盤自体が安全域としての性質を有することとなりますし、経験的にPBR1.2倍程度までは安値の範囲として私も容認する姿勢でおります。


そしてこれを捉えての、バフェットとグレアムのPBRは1.2倍までという発言なのだろうと私は考えています。


また自動車のような成熟産業では大きく成長する余地も限られるため、上値も限定的ではありますが、業界自体が衰退してしまわない限りは、概ねPBR 0.8-2.0位の間を景気循環とともに行き来するのがこういった企業の性質なのでしょう。


ちなみにより財務状態が悪く、より小さい企業に投資する場合は、安全域を保つためにPBRが更に小さな、まさにネットネット銘柄に投資する必要があると思っています。


私の投資


割安の水準


それでは自動車業界を代表する銘柄のバリエーションを見てみましょう。


TM: PBR 1.13, PER 10.9
GM: PBR 1.44, PER 9.2
F: PBR 1.43, PER 10.9
VOW: PBR 0.76, PER 11.6
BMW: PBR 1.07, PER 7.4
日産: PBR 0.88, PER 6.4


米国の自動車業界がやや高値傾向を付け始めているのに比べて、日・独の自動車業界は出遅れている印象ですね。


電気自動車へのシフトの遅さや、日・独自動車産業の様々な不正問題、また日・独の市場平均自体が米国よりもリーマンショック後から伸び悩んでいることがこの背景にありますが、こういった外的要因はいずれも本銘柄のファンダメンタルズそのものとは関係のないことですね。


業界の中でもトップクラスの利益率と、負債比率の低さなどから考えて、PBR 1.0倍前後であれば現状割安と私は判断します


シケモク投資の注意点


グレアム投資は、バフェット銘柄のように半永久的に成長し続けるブランドに投資を行うものではなく、簿価から見て割安傾向にあり、それ故、統計学的に勝率が高く見込まれる銘柄への投資となります。


そして低成長・低利益率ながらもBPSがほぼ毀損されない程度には今後も利益を出し続けるこういった銘柄では(シリーズの(1)を参照ください、リーマンショックの最中も本銘柄のBPSはほとんど減じず順調に漸増しています)、時とともに押し上げられるBPSの存在下に、いずれ何らかのキッカケにより株価は標準回帰する可能性が高いと見込まれます。


そのキッカケが何になるかは分かりませんが、こういった安値銘柄では企業自体の業績改善や円安、日本国内外の景況感改善などの外部要因改善といった何らかの要因により、株価が上昇する確率が総合的に高いと見込まれるのです。


いわば「下手な鉄砲数うちゃ当たる」とでもいいましょうか、低PBR・低PER、かつ簿価が毀損されないという長期的に勝率が高い見込みの銘柄に分散投資するのがグレアム投資のキモになります。


但しこういった銘柄に時に生じる、長い業績低迷や不正会計の判明などの事故を防ぐためにポジションを小さく保つ必要がありますし、本銘柄の場合、私はポジションはポートフォリオ全体の3-7%程度位までと考えております。


またグレアム投資では2年間ほどその銘柄を保有して、株価が上昇する見込みがなければ早々に売却を検討します。そのため、EVやカーシェアのような長期的には問題となり得るものの短期的に業界全体を衰退させ、企業を赤字転化させうるなどの影響がない事柄は、グレアム投資の銘柄選別では株価の上値を抑えチャンスをもたらしこそするものの業績に大きな影響は与えないと考えられ、許容可能かと思っています。


最後に


「殆どのマスが当たりのルーレットにボールを投じる」のが投資のポイントであると、往時のグレアムは言いました。


一つ一つの銘柄での勝率は確実でなくとも、全体としての勝率を追求するのは現在のETFに通じるものがあると思いますし、それは個別銘柄でも保有比率を低く保ち分散することで実現可能だと思います。


派手では無くともそういった投資を行っていきたい、こういった銘柄の購入に際しては私はそう思っています。


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