ディスカバリー・コミュニケーションズ(DISCA)の投資判断(2) コンテンツの重要性





前回は、ディスカバリー・コミュニケーションズがNetflixを始めとする動画配信サービスの台頭によって業績の伸び悩みに直面していること、しかしそのキャッシュ創出力は未だ健在であることをお伝えしました。


今回は、このキャッシュを稼ぐ力が今後も保たれ得るか、この点を考えるに当たりまずは本銘柄を巡る周辺環境を見ていきます。






動画配信サービス


TV離れの米国


米国ではケーブルTVに契約しなければ、TV上の主要なコンテンツがほとんど見られなくなっており、TVを見るのにケーブルTVを契約するのが事実上必須となっています。


そしてインターネットの接続もケーブルTV会社とセットで加入するという、ケーブルTV業界にとって盤石の態勢が、従来は構築されていました。


しかし、近年の風潮としてコード・カッターと呼ばれるケーブルTVの解約や、コード・ネバーと呼ばれるそもそもケーブルTVに契約しない視聴者の増加が業界を悩ませています。


※Tech Crunch Japan 2017.5.5記事より引用。


近年ケーブルTV以外の、ブロードバンドの契約が次第と増加傾向にあり、脱ケーブルTVの逆風が業界を襲っています。


また一例として2017年のNFL決勝戦、スーパーボウルは例年であれば視聴率50%越えであるものが、最近は40%台後半と前年比8%減に終わっており、このコード・カッターの流れによるTV自体の利用減が懸念されています。


かつてはケーブルTVでしか視聴出来ないコンテンツ(スーパーボウルやF1、そしてディスカバリー・チャンネルを始めとした専門的チャンネル群 etc. )が多くあることが顧客維持に有効だったのですが、そうとも言えなくなってきた現状が業界の懸念を一層煽っているのです。


ライバルの活躍


そのため、本銘柄の今後を考える上で避けられないのが、Netflix、Hulu、Amazon、YouTube redなどの動画配信サービスの台頭です。

※Business Insider (US) : More people subscribe to Netflix than cable TV in the US. Jun. 15, 2017より引用。


動画配信サービスの中では米国シェアはNetflix 50%超, Amazon 25%, Hulu 13%となっており、特に最もシェアが大きいNetflixは、上図のような爆発的な普及によってCable TVの普及率を2017年に上回っています。


特に最大のライバルとなるネットフリックスは、世界で1億人超の加入者を誇り、同社だけで米国の全ネットトラフィックの37%を使用する(動画は容量が大きくなります)規模を持ちます。


またそのコンテンツ制作力も充実しつつあり、収益の殆どである60億ドルを製作費に充て、アカデミー賞・エミー賞獲得作品を含む200本以上のオリジナル作品を配信しています。


またアマゾン・Hulu・YouTubeもそれぞれ巨費を投じてコンテンツ作成を競っており、そのコンテンツ製作力は今後より改善していくことが予想されています。


オールド・メディアの対応


オールド・メディアも手をこまねいて見ている訳では有りません。


ディズニーはNetflixへのコンテンツ販売を2019年で中止することを発表しています。また同社は21世紀フォックスの買収を決定し、動画配信サービスを強化する方針を固めています。


前回お伝えしたように、本銘柄もドキュメンタリー番組大手のスクリップスを買収し、世界最大のドキュメンタリー・チャンネルとしての地位を一層固める戦略です。


動画配信サービス自体は付加価値を付け差別化するのは難しく、それぞれのサービスを差別化するのは独自コンテンツやAmazon Primeの様な付加サービスですから、いずれの企業も買収や大規模投資によりコンテンツの拡充を図る、熾烈な競争を繰り広げているのがこの業界なのです。


私の考え


このようなメディア業界内で次第に存在感を小さくしているのが、ケーブルTV業界になります。


そしてディスカバリー・コミュニケーションズは2013年の高値から見て50%強の強い下落を示しており、市場は本銘柄の先行きに悲観的です。


それでは同社は今後市場が危惧するように全ての顧客に見放される未来が待っているのでしょうか? 同社のアニマル・プラネットなどの教育番組や歴史・軍事・探検・科学などの各種のニッチながらも優れたドキュメンタリーは誰も見なくなるのでしょうか? そしてNetflix・Amazon・Youtubeなどといった動画配信サービスのみが生き残り、現在のTVメディアは軒並み壊滅する未来が待つのでしょうか?


私はそうはならないと思いますし、新しいテクノロジーが出現してきたときに、市場がよく見せる過剰反応がまた出てきたのだろうと思います。


というのは、ケーブルTVが産業としての死を迎えるとしても、先述の図の衰退の速度(契約件数減は-1%/年)から言ってまだまだ先の話でしょうし、そもそも全ての人がTVを見なくなるということは現実的では無いでしょう。特に高齢者の需要や企業・教育需要は今後も根強いだろうと思います。またオンラインで動画を配信する戦略は、本企業においてもある程度の有効性があるでしょう。


そして本企業の利益の源泉、つまりコンテンツの質とそれを生み出す人的資源、特にドキュメンタリーというニッチ部分におけるそれは、企業の持つ「堀」として、やや浅くなりはしたものの未だ健在だと思うのです。


本企業の財務指標を見返してみましょう。


※縦軸の単位は百万ドル。


こちらは前回お見せした本銘柄のキャッシュフロー推移です。


ディスカバリー・コミュニケーションズの時価総額が83億ドルであるのに対して、直近の四半期業績まででいうと、本企業は15.8億ドル/年のフリーキャッシュフローを生み出しています。


これは本企業を丸ごと買収したとしたとして、現状のキャッシュフローを維持するだけでも5.3年で投資した全額が回収可能であることを示しています。


そして競争の最中にあっても本企業はキャッシュフローが現状全く減じることなく、それどころか経時的に増えているのです。


更に9.9億ドル/年のフリーキャッシュフローを生む、スクリップスの買収が本四半期には控えており、上記のキャッシュフローにスクリップスのそれが追加されることとなります。ちなみにスクリップスの財務も非常に優秀であり、ここ10年で一度もキャッシュフロー赤字が無く業績は右肩上がりという一級品の財務状態です。


私には時価総額83億ドルの同社において、この合計26億ドル/年におよぶ莫大なキャッシュフロー創出力を根拠とした投資は、あまり難しく考える必要のない、実に単純な賭けに見えます。


次回は本銘柄の本質的価値を考察しています。特にスクリップス買収が目前に迫っており、その買収を踏まえたアービトラージの問題もありますので、そこも含む考察を行っていきたいと思います。





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