ディスカバリー・コミュニケーションズ(DISCA)の投資判断(3) ダブルバガーを狙える本質的価値





今回はディスカバリー・コミュニケーションズの本質的価値を考えていきます。


本質的価値


本質的価値の算出方法には、(1)消費独占力を有する銘柄でのバフェットのブランド価値に基づく方法、(2)グレアムの簿価に基づく方法、(3)マンガーの企業価値は残余期間に取り出せる現金の量という3つの考え方があります。


本企業は、(1)の消費独占力は動画配信サービスに押され、ある程度損なわれていると思いますので、別の方法で評価する必要があるでしょう。


また(2)の簿価に基づく方法は、本銘柄では資産に占めるブランド・のれん代が大きく、実際に計算すると十分な安全性は取れません。


従ってこの場合、(3)の今後本企業から取り出せるキャッシュの量 = 本質的価値という概念で企業価値を考えていきます。


幸せな結婚


※ディスカバリー・コミュニケーションズ CF推移。縦軸の単位は百万ドル。


それではキャッシュフローを見ていきましょう。上図は本企業のキャッシュフロー推移になります。


経時的に右肩上がりに推移しており、2017年第3四半期の時点で、同社のフリーキャッシュフローは15.84億ドル/年です。


※スクリップス CF推移。縦軸の単位は百万ドル。


また本四半期で買収が完了する予定のスクリップスも、今回の場合は併せて考える必要があります。


スクリップスはリーマンショックの際も影響を受けず、ほぼ右肩上がりの優秀なキャッシュフローの推移を見せています。こちらは直近の2017年 Q3 TTMでのキャッシュフローは、9.85億ドル/年になります。


そのため、15.84+9.85 = 25.69億ドル/年のフリーキャッシュフローを生む会社が、本四半期に誕生することになり、ここから本質的価値を求めていきます。


ちなみにスクリップスは単独の投資対象として考えても、私自身、割高感を感じない優秀な企業であり、M&Aに有りがちな好況に任せてキズモノを高値掴みするというような、ありきたりの買収でない印象を受けます。


不幸中の幸いといいますか、業界の不振によるシブシブ行った合併ながら、(1)悪い環境ゆえに適正な価格によって買収がなされ、(2)同じドキュメンタリー製作会社同士のシナジーも望め、(3)優れた財務同士の企業が合併するという、結果としては「幸せな結婚」になったというのが私の見る印象です。


個人の場合でも恋愛が盛り上がった結果、あまり相手を見ずに舞い上がったまま結婚すると不幸が待つことがままあるように思いますので、個人も企業も結婚は難しいことが多いものだと思います。


記事が長くなりすぎるため、スクリップスの詳細な分析は省きますが、興味のある方は同社のIRをご参照ください。






買収による株式の希薄化


さて、スクリップスの買収にあたり本四半期では株式の新規発行が行われます。本質的価値の計算に先立って、こちらの計算が必要です。


以下は買収にかかる取り決めを、ディスカバリー・コミュニケーションズの2017 Q3 決算報告書から引用したものです。


現時点で、スクリップスの買収に当たる総額は115億ドル(現金84億ドル+株価31億ドル)であり、スクリップスの純負債を27億ドルと見積もっている。

スクリップス株主は一株当たり63ドルの現金を受け取ることとなる。そしてスクリップスの株主が希釈化普通株式の20%、ディスカバリーの株主が80%を概ね保有する意図で株式交換を行う。

指定期間内のディスカバリーの株価に応じ、ディスカバリー株シリーズCを以下に準じて受け取る(※C株とは議決権のない株式のこと、本企業にはA株・B株もあり議決権の有無がその違いですが、いずれも我々個人投資家にとって大きな違いは有りません)。

・28.7ドル≧ 0.9408株
・28.7-22.32ドル 0.9408-1.2096株の間で比例した数の株式
・22.32ドル≦ 1.2096株

またディスカバリーは株式発行の代わりに、差額を追加の現金で支払うこともできる。


つまり買収にかかる費用を現金だけでなく、新規発行する株式で補うということですね。


買収期日付近のディスカバリーの株価によって発行される株式数が異なることになり、新株は概ね1.22-1.57億株の幅で発行されることとなります。


現在はクラスA, B, Cで合わせて、1.54 + 0.07 + 2.19 = 3.81億株、そしてそれと別に優先株(時価総額に反映されない特殊な株式)1.89億株が存在し、合計5.7億株が存在します。


従って新規発行される株式を併せ、6.92-7.27億株(約78-82%)に株式価値は希薄化されることとなります(EPS, BPSなどの指標が希薄化されることになります)。


※注:
実際は差額を現金で支払っても良いと注釈にありますので、どの程度の株式希薄化が成されるかは結果が出るまで分かりません。ただ80%に希釈する意図でこの希薄化を行うと注釈にありますので、恐らく80%前後の希薄化を目指すのだと思います。本銘柄への投資を検討される方は、ご自身でもよく決算報告書を確認下さい。


本質的価値


というわけで、15.84+9.85 = 25.69億ドル/年のフリーキャッシュフローを生む会社が本四半期に誕生し、そして株式価値は80%に希薄化することになります。


また現在の時価総額は額面上は81.3億ドルですが、優先株を考慮すると(優先株は時価総額に反映されない特性があります)、実際の時価総額は81.3億ドル×(総株式数:5.7億株/普通株式数:3.81億株)= 121.6億ドルとして計算していきます。


これを踏まえ、新会社の本質的価値を考えていきましょう。


現状のキャッシュフローは合併前の両社ともに右肩上がりにある訳ですが、それでもなお業界に吹く悲観的な逆風を考慮して、(1) + 10%/年で成長する場合、(2) 0%成長の場合、(3) - 5%でフリーキャッシュフローが減じる場合の見積もりをそれぞれ考えていきますね。


※図中のキャッシュフローの単位は100万ドル。


まずは年10%で順調にフリーキャッシュフローが成長する場合です。


ちなみに、将来得られるキャッシュフローを現在の価値に換算する場合は、私はバフェットと同じく米国長期債ないし長期債利回りが低いときは10%を用いて、将来のキャッシュフローを現在の価値に割り引くようにしています。つまり10%の元本保証の債券と比べ、利益がどの程度見込めるかということですね。上図はその結果を反映していますので、ご留意下さい。


上図のように将来のキャッシュフローを見込み、かつ5年後の会社価値はキャッシュフローの10倍だったとします。すると5年後までに得られるキャッシュフローの総和と、5年後の時価総額を総じ、かつ株式の希釈を考慮すると本企業の本質的価値は308億ドルということになります。


現在の時価総額が121.6億ドルですから、なんとこれは10%の利回りの債券と比べてなお、2.5バガーということになりますね! 




しかし逆風が吹き荒れる業界環境のため、年10%の成長率を今後維持できない可能性もあるでしょう。次はもう少し悲観的に、現状では成長を続けているキャッシュフローが残念ながら全く成長しなくなったという、+0%の仮定で計算していきましょう。


今回は5年後の企業価値がフリーキャッシュフローの7倍となる見込みで計算していきます。同じように計算してみると…、5年後の本質的価値は167億ドル、これは年10%の利回りに加えて37%の利益を5年で得る計算です。まずまずですね。




では現状より更に悲観的に見積もって、合併の甲斐なくマイナス成長となった悲しい場合を考えましょう。


-5%の業績悪化が来年から始まり、5年後の企業価値はフリーキャッシュフローの5倍というシビアな予測です。


ですが、この場合でも本質的価値は117億ドルとなり、年10%の利回りの債券投資と比べて5年で96%のリターンとほぼイーブンの利回りが確保出来る計算なのです。


そして今までの見積もりはわずか5年間で得られるキャッシュフローを基にした計算ですが、実際の本企業は、この後もキャッシュフローを生みだし続けるでしょうし、その場合は上にお示しした図のように更に多くのキャッシュを生み続けることになります。


実際のところは?


さてここで仮にこの5年間のキャッシュフローが、(1) +10%成長、(2) 0%成長、(3) -5%成長、(4)倒産し価値が0となる可能性が、それぞれ10% : 50% : 39% : 1%とします。


これは現状でも成長が続くキャッシュフローからして、実に保守的な見積もりだと思います。


この場合の企業価値は(0.1×308億ドル + 0.5×167億ドル + 0.39×117億ドル) = 159.93億ドルが期待値ということになります。つまりここまで悲観的な見積もりを重ねて、かつ10%の利回りの債券と利益を比較した上でなお、32%の利益が5年間で平均的に期待できる訳です。


これを予測年利回りに換算すると平均16%程度(期待値は9-61%/年の間)ということになります。


私の考え


以上より、まずまずのリターンが期待できる投資と思いますので、私は本銘柄への投資をこの四半期で行いました。


投資中の懸念事項としては、(1) 最も悲観的な見積もりの-5%成長のキャッシュフローとなった場合に安全域にやや欠けること(安全域が殆ど取れていません)、(2) 本銘柄は完全な衰退産業の可能性も否定できないこと、(3) 経営陣が愚かにもキャッシュフローの全てを無駄な買収等に用い消耗戦が始まることなど、が挙げられます。


こういった点を踏まえると、ある程度の分散投資が必要かと思いますので、私は資産の15%(500万円ほど)の投資を今回行っています。


ちなみに私は個別株投資のリスクは分散によってのみ軽減されるのではなく、本質的価値よりいかに安値で買うかも重大なファクターと考えています。そして企業の監視と安全域の定期的な確認が保有には欠かせませんから、マンパワーの点から分散投資は最高でも10-13銘柄程度で十分かと思っていますし、ブランド力や安全域の幅、財務状態の確からしさに優れた銘柄では資産の20-60%を1銘柄に投資することもときにあります。


ここはバリュー投資家でも人によって流儀が分かれるところですが、ブランド銘柄を好む私の投資手法の関係もあり、私の場合はこのように考えています。


また安全域がとれず、最悪時は年10%の利回りの債券と比べ同程度の利回りといっても、この高値相場の中では優秀な利回りと安全性を有すると思われるため、ある程度のポートフォリオ比率までの投資は可能かと考えます(状況により10-25%ほどのPF比率を考えます)。


陰日向に咲く


米国市場は全体として強い高値を付けていますが、私が見たところFAANGを中心としたセクターに高値銘柄が偏った凸凹のある市場が形成されています。


もちろん全体的な好況を反映して、バリュー投資としては投資対象となる銘柄が数・質ともに昨年より更に劣る厳しい市況ではありますが、FAANGの裏で割をくっている銘柄では投資妙味がまだ僅かに残されている印象を受けます。


こういった市況においては市場の陰日向にある銘柄を見定めて、丹念に銘柄選別を進めていきたい、そう私は思います。


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