アーリーリタイアを考える人が知るべきこと(5) 職業連動債という生涯賃金の考え方





最近やや影を潜めてきたとは言え、日本では年功序列という給与システムがまだ根強く残っています。


これは同じ仕事を行っていたとしても、企業に勤務した年数・年齢によってその所得が評価されるという制度で、加齢とともに技能と能力が蓄積され、最終的に企業の成績に反映するという考え方に基づいています。


ここには人により様々なご意見があるものと思いますが、近年はこの考えの限界も指摘され、成果主義を人事に取り入れる企業が外資系やベンチャー企業を中心に増えてきています。


今回、アーリーリタイアを考える方において、この給与形態がどのようにリタイア計画に影響するか考えてみたいと思います。




生涯年収とアーリーリタイア


最初に質問です。


仮に生涯年収が同一の場合、給与形態は以下のいずれが優れるでしょう?



1. 徐々に年収が増加する公務員、退職金あり

2. 最初から年収が多いが現役生活が短いプロ野球選手、退職金なし



通常の考え方ですと、後者は現役生活が短く不安定そうだな、やはり前者の公務員が堅実で固いだろう! という考えの人も多いと思います。


しかし当ブログを訪れている皆さまの殆どは投資家だと思いますので、ここでは投資家的に考えてみましょう。


平均的な日本の給与形態


本邦の年齢ごとの給与はどうなっているのか、まずは統計を見てみます。


※厚生労働省 平成28年度 賃金構造基本統計調査の概要より引用。


こちらは一般労働者の年齢・性別ごとの月当たり給与になります。全ての職業を平均したこちらの表でも年功序列の影響は未だ見て取ることが出来ますし、公務員など「固い」とされる職業の給与動態はおそらくこの特徴がもっと明確なものになるでしょうね。


そして今の日本では、おおむね退職金を併せて、2億円程度が平均的な生涯賃金となっています。


シナリオ1 年収が徐々に増える職業の場合


さて仮にここで、晴れて大学を卒業し公務員に就職した22歳の若者が、将来の日本にハイパーインフレによる懸念を抱き、けなげにも食うや食わずで毎月貰う給料の全額を投資に回したとします。


S&P 500へのインデックス投資で運用を行い、かつ過去のリターンに準じた10%/年で彼の生涯年収2億円を運用できたとすると、彼の努力の結果、退職時の60歳時点では資産はいくらになるのでしょう?




こちらは前述の図の男性の平均収入に基づいて、給与の全額をそのまま保有した場合 vs. S&P 500に投資した場合の60年後の資産価値です。


上図でいうと、大卒後22歳時に260万円だった給与は、60歳時には何と9700万円に膨れ上がっています。


このように22-60歳に得られた資産額・運用額を累積し、最後に退職金として2000万円分を60歳時に得られるように計算していきます。


すると、生涯賃金は以下になります。


給与の全額をそのまま保有した場合 vs. S&P 500に投資した場合
2億1000万円 vs. 15億4000万円


おお! 素晴らしい。 複利効果は絶大ですね!



注:ここでは計算をシンプルにするためにインフレ率は省き、生活費・社会保険料などは考慮していません。



シナリオ2 年収が最初から多い職業の場合





しかしこれが仮に、若いころから多額の給与が得られるプロ野球選手だったらどうでしょう?


こちらは同じく生涯賃金が2億円として、22-36歳の15年間で現役生活が終了(年棒1000-2000万)、その後働かなかった場合のモデルです。


初年度に1000万円だった給与は、38年の時を経た60歳時にはS&P 500の力により、なんと3億7000万円まで増加することになります!


それでは生涯賃金はどうなるでしょうか?


給与の全額をそのまま保有した場合 vs. S&P 500に投資した場合
2億1000万円 vs. 42億9000万円


ここでは、初期投資額が実にものをいいますね。40年弱の月日はかくも絶大な複利効果を生むことになります。


年功序列の罠


というわけで、同じ2億円をもらうにしても、人生の前半に貰うか、中盤以降に主に貰うかによって、そのリターンが大きく変わることになるわけです。


そして、22歳時に貰う260万円が実質的に60歳時点で1億円の価値がある一方、60歳で得られる退職金2000万円は2000万円の価値のままであり、実はほとんど退職金という制度は嬉しくないことも分かります。


実際、この退職金2000万円は、運用利回りで22歳の現在価値に割り引くと54万円の価値しかないことになります。


そのため投資家にとって年功序列制度や退職金とは、「固い」安心の制度どころか、複利効果が使えなくなるため、出来れば避けるべきシステムということになるのです。


このように、私は資産を見る際、現在価値から運用利回りで複利換算を行い、将来価値に換算するようにしています。


そしてこれはバフェット投資でいつもお伝えしている、株式の将来価値を現在価値に金利で割り引くという、彼の考え方と根本的に同じものですね。


職業連動型債券


こういった投資の考えをもう一つ給与所得に応用してみると、経済上の職業の意味は、(1)年齢と所属する業界の景気に応じて利回りが変化しつつも、(2)一定のキャッシュフローを償還年数まで取り出し続けることが出来、(3)償還年数に至れば退職金が償還される職業連動型債券ともいい変えられます。


そして皆さんがこの「職業連動債」から取り出したキャッシュフローを、自身の投資に期待する利回りの複利換算で、将来キャッシュフローに換算することで、特定の年齢までに作ることが出来るリタイア資金を予測することが出来ますね。


例えば外資系の企業にお勤めの方では、若いころから給与がかなり多いでしょう。そして逆に年齢を重ねると、勤務継続が体力的に難しいことも多いと聞きますから、早いうちに「職業連動債」からのキャッシュフロー引き出しは終了するものと思います。


そして先述したプロ野球選手のように、この引き出した総額に皆さんが期待するS&P 500の運用利回りを掛ければ、生涯に得られるキャッシュフローは概ね予想がつく訳です。


更にこの利回りが将来予想されるインフレ率を超えてなお、将来の生活費を担保出来るほどの十分な資産を生んだ場合に、アーリーリタイアが達成されることになりますね。


逆に公務員の方では、先の年功序列の給与形態が妨げとなり、「職業連動債」から時間をかけてキャッシュフローを引き出す必要があるだろうと思いますので、その分アーリーリタイアは遅くなる傾向にあると思います。


インフレ連動債


しかしながら、実際に本邦では年功序列の給与形態の方が恐らく多いと思います。


そのため先のような話では、「アーリーリタイアは早くから給与が多い人だけのゼイタクなのか…」とがっかりしてしまった方も多いと思うのです。


ですが今回言いたいもう一つのことは、給与所得はインフレに連動して増加する性質があることです。


そのため職業から取り出せるキャッシュは、インフレ率に応じて増加することとなりますし、言い換えるとインフレ連動債(TIPS)としての性質も職業は持っていることになります。


例えばインフレが年5%で進んでいく場合に、あなたの「職業連動債」の残余価値も、それに連動して(タイムラグはあるにせよ)概ね年5%に準じた水準で価値を増していくことになる訳です。


特に予想外の強烈なインフレ=高金利で、株式の価格が著しく下落した場合には、安定した給与所得が非常に心強いものとなると思われます。


更にインフレ耐性がある給与所得の特性により、早いうちにアーリーリタイアしてしまった人と比べて、インフレリスクをヘッジ出来ることになるだろうと思います。


そのため、必要な生涯資産見込みに加え十分以上の安全域をもって資産形成に成功した人でなければ、実際はセミリタイアという保険をかけたほうが、経済的には安全性が高いよう私は思います。


今回のまとめ


今回の結論をまとめると、職業連動債の価格(私でいうと医師免許の価値ですね)、そしてそこから運用により導かれるリタイアまでの時間は、以下のように計算できることになります。



1.「職業連動債」から取り出せるキャッシュフローと既に保有している資産に、運用利回りを乗じることで、リタイアまでに獲得する将来キャッシュフローが得られる。 


2. なお「職業連動債」の残余価値は、インフレ連動債のようにインフレ率とある程度相関する。 


3. この将来キャッシュフローと、保有している「職業連動債」の残存価値を合わせたものが、インフレ率を上回りながら生活費を担保できるようになるまでが、リタイア・セミリタイアまでかかる期間と思われる。 


4. 早期に多くのキャッシュを取り出せる職業は、投資を行う場合の複利効果が大きくアーリーリタイアに向くと思われる。



こういった考え方では、例えばニッチながら負担が少なく収入は高いシケモク債と言える職業がある一方、逆に大手企業ながら勤務時間 vs. コスト効果が悪く手を出しがたい低金利債もあり、職業を資本価値に置き換えてみると経済面からは一つ面白いように感じます。


そして、債券投資やバリュー投資と同じく、こういった考え方は生活費設計も投資も本質は同じなのではないか、私はそう思っています。


スポンサーリンク



スポンサーリンク


0 件のコメント :