前回は、(1)米国債に短期・中期・長期債があること、(2)米国債の残余期間によってそのリターン及びリスクに違いがあることをお伝えしました。
今回はこの詳細を考えていきます。
米国債金利を決めるもの
米国債の金利は償還まで1年以内の短期債と、それ以上の償還期間の中期・長期債で決まり方が異なります。
短期債
ポイント1:短期金利は中央銀行の政策金利から概ね決定される。
(1) FRBが銀行間の短期金融市場へ、資金を供給・吸収する
(2) 金利水準が需要と供給に基づき、FFレートの水準へ変化する
短期金利はFRBが決定する政策金利、FFレート(フェデラルファンドレート)によって決められています。
FFレートとは、FRBが銀行間の短期金融市場で市場操作を行うときの目標にする金利です。これはFRBが金利を操作する際に短期金融市場で売り買いを行い、目標とする金利に近づくまで資金の供給・吸収を行って、目標値まで金利を誘導する方法で行われます。
そのため短期債の金利は、FRBが人工的に短期金融市場(フェデラルファンド市場:翌日物金利の市場)への資金供給・吸収で作り出す、単純な需給によって決まりますのでシンプルで理解しやすい仕組みです。
中長期債
ポイント2:
長期金利 = 短期金利 + 期待されるインフレ率 + 期待される成長率(ないしリスク)
中長期金利はもう少し複雑な仕組みで決まります。というのは先の中央銀行が決める短期金利にプラスして、市場による需給の要素が加わるのです。
長期金利はまず短期金利がもとになります。これはごく短期間のみ保有すれば元本が保証されている短期債という商品が存在するため、長期債の金利も自ずから最低限それに見合った水準になるまで売り買いされるということですね。
次に長期債の金利を決めるのは、市場の皆が予想するインフレ率です。インフレ期待が各種の経済指標から強まれば、予め利益が固定している国債は不人気となり、デフレ期待が強まれば反対のことが起きますので、ここは市場の皆の人気投票で価格が変動する部分です。
最後に、国債を発行している国家に期待される成長率とリスクが国債の価格を動かします。これは例えば、ギリシア国債と米国債ではどちらを買いたいか? という問題です。ギリシア国債は莫大なリスクプレミアムを乗せて高い金利を付けなければ誰も買わないでしょうし、米国債ならばリスクプレミアムは当然に低い水準となるわけです。
そして株式と同じく米国債も、不人気で価格が下落すればそれを反映した高金利を付けますし、高値となれば逆に低金利になる特性を持ちます。
好況と恐慌、そして米国債
好況と米国債
では実際にチャートを見てみましょう。
※FF金利と米国中期債金利の長期チャート。灰色部は景気後退期。
近年FRBは、好況時にFF金利を上げて過熱した景気を冷まし、不況時にFF金利を下げて景気刺激を行うような政策を繰り返しています。
そしてそれにリンクするように、10年物の中期国債も全体的に金利が上下しているのが見て取れますね。
この金利の変化は、以下のように説明できます。
好況により景気を冷ますべく利上げが始まる現在のような局面では、まず短期金利がFRBの設定したFFレートに合わせ上昇します。
ここで先程の考え方を思い出してみましょう。
長期金利 = 短期金利 + 期待されるインフレ率 + 期待される成長率(ないしリスク)
つまり中長期金利は、利上げによる短期債金利の上昇以外にも、好況の需要切迫によるインフレ率回復、更に好調な株式と比べ利回りが固定された「退屈」な米国債への売りなどといった市場の判断にも押され、こちらも同じく金利上昇圧力を受けるのです。
不況と米国債
※2006-2017年のSP500 vs. 短期債 vs. 中期債 vs. 長期債の価格チャート。
※SP500をSPY、短期債をSHV、中期債をIEF、長期債をTLTで代用。
そして、恐慌時はこれと逆の現象が起こります。
上図はリーマンショックとその後の期間の各種国債の債券価格をチャートにしたものです。ここでは不況時=S&P 500指数の下落時に、米国債は被害を受けずむしろ値上がりしているのが見て取れますね。
こちらは以下のように説明出来ます。
恐慌時には株式への信頼が損なわれ市況は停滞し、需要低下を反映して物価は下落してデフレ圧力が生じ、そこで中央銀行は利下げによる景気改善を図ります。
ここで、先程の考えをもう一度見てみます。
長期金利 = 短期金利 + 期待されるインフレ率 + 期待される成長率(ないしリスク)
中期・長期金利はこの法則によって、つまり利下げ・デフレ・高まった投資家の不安が一気に生じることによって下落することとなり、「質への逃避」とも言われる米国債への資金の逃避が急激に生じることになるわけです。
恐慌時のエース、その名は中長期債
先の図をよく見ると、長期債 > 中期債 > 短期債の順で恐慌時のリターンに優れています。
このリターン差が生じる理由は、単純に数学的理由によるものです。というのは国債価格は以下の式によって、金利に応じて価格が刻一刻と変動しています。
国債価格 = 100 × (100+購入時利率×残存年数)/ (100+現在利率×残存年数)
この式が表していることは、金利上昇時は既存の債券の価値が下落し、金利低下時はその逆のことが起こるため、国債は常に最終的な償還額と利回りに応じて価格の変化を続けるものだということです。
この数式自体は記憶は不要と思いますが、ここで言いたいのは、この数式では残存年数が大きいほど分母・分子がより大きく変化することになるため、金利変動時には、国債の残余期間が長いほど価格が大きく変動するということですね。
今回の米国債投資(ETF)のまとめ
以上をまとめますと、このようになります。
ポイント1:
短期金利は中央銀行の政策金利により概ね決定される。
ポイント2:
長期金利 = 短期金利 + 市場のインフレ期待・成長への期待
ポイント3:
恐慌時 = デフレ局面には米国債への買いが集まり、特に長期債で顕著である。しかし好況時 = インフレ局面にはその逆の現象が起こる可能性が高い。
では次回は、いよいよ個人投資家がこの特性を投資にどう生かすか考察していきます。
特にこれ程の好況下にある現状、バブルが弾けた場合には多くの方の株式資産にかなりの痛手が生じるだろうと思いますので、その痛手を合理的に食い止める手段に関しても併せて考察していきたいと思います。
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