ディスカバリー・コミュニケーションズ(DISCA)の投資判断(5) 2018年Q1決算 難しい決算





今回は2018年5月8日付、ディスカバリーの四半期決算を見ていきます。


※なお、スクリプスとの合併後から同社は社名をディスカバリー・コミュニケーションズ → ディスカバリー Incに変更しているのですが、当ブログでは今までこの社名で記載してきた都合上、このまま掲載していきますね。




ディスカバリー 四半期業績


※DISCA IR, 2018 Q1より引用。


本四半期の売上は前年比43%増、営業利益は58%減でした。


さて今回の決算が少し難しいのは、この結果には、(1)本四半期で買収を行った、スクリプス関連の一時的経費(合併コスト・リストラ費用など)が業績に含まれ、更に(2)スクリプス合併による売上・利益増も含まれていることです。


そのため、昨年度との業績比較を行うに当たり、(1)(2)の影響を差し引く必要があるんですね。


まず(1)を差し引くため、OIBDA(営業利益から減価償却費・リストラ費・スクリプス合併費用などを減じたもの)で、営業利益を見ていきましょう。




上図を見ると、スクリプス合併関連費用を差し引いた、OIBDAでは本四半期は昨年に比べて売上43%増、営業利益16%増を達成していることが分かります。


ふむ、まずはスクリプス合併で、ある程度の利益増が得られていることは分かりますね。



では次に(2)を考えます。


スクリプスの買収により、今年度から新規にスクリプスの利益、またディスカバリーが昨年から新規に取得したチャンネル(OWNブランド・VTENブランド)が上乗せされています。この影響を取り除きましょう。




上図赤字のPro Forma(前年比較のための補正営業利益)は、2017年Q1開始時からスクリプス、OWN, VTENチャンネルを保有していたと仮定したときの営業利益です。


このPro Formaを見ていくと、2017→2018年にかけて、Distribution (番組配信)、Advertising (広告)ともに売上はしっかり伸び、全体で10%増を達成している一方、何故か営業利益(OIBDA)は伸び悩んでいますね。


これは、本四半期が冬季オリンピックにかかったため、米国外で一時的な売上と営業経費増が生じたことが原因です。


ここはもう少し詳しく、業績を米国内・米国外のセグメント別に見てみましょう。



部門別業績


米国




米国部門はディスカバリーの営業利益の80%を生むメイン部門です。


さて米国部門はPro Formaベースで(上図赤字)、Distribution (番組配信)、Advertising (広告)ともに売上はしっかり伸び、売上増を達成しています。更に営業利益も1%増加していますし、各種買収前のディスカバリーの従来番組群は3%の営業利益増を達成しています。


決算では顧客が本四半期では5%減少したとのことですので、前回お伝えしたように顧客5%減を補いつつの営業利益増には、従来のケーブルTV以外の、ストリーミング配信(HuluやAmazon Prime、本企業の動画アプリDiscovery Go)や広告事業による収入がそれなりに存在するものと推測します。


なおカンファレンスコールの質疑応答では、ネットフリックスなどストリーミングとの今後の連携に関してはコメント出来ないとしており、またどの位の利益が上記事業から得られているのか明らかになっていません。


ケーブルTV各社などの顧客との関係もありますので、大人の付き合い上、ここは仕方が無いのでしょう。


米国外




米国外事業はPro Formaベースで(上図赤字)、Distribution (番組配信)、Advertising (広告)ともに売上は50%程増と激増しています。ですが問題なのは営業経費も激増したことによる営業利益減です。


この売上・経費増は先述した冬季オリンピックによるものです。


この項目は長期的な影響は少ないと思いますので、International部門の合併後の成績を評価するのには、来期以降を待つ必要があると思います。



ディスカバリー 通年予想


さて、今期のフリーキャッシュフロー(FCF)は1億1200万ドルです。これは前年度のディスカバリー・スクリプス両社のFCF合計、4.8億ドルと比べて相当に少ないです。


ですがここには、先のスクリプスとの合併費用・オリンピックのコスト増が大きな影響を与えていると思われ、来期以降の改善が期待されます。


カンファレンスコールによると、2018年通年のFCFは23億ドルとの見込みが示されています。


ここから逆算すると、Q2-Q4のFCFは合計21.9億ドルの見込みとなり、昨年同時期のディスカバリー・スクリプス両社のFCF合計が19.9億ドルであったため、減税の影響が含まれるとしても前年並みないし、やや増のFCFが確保出来る見込みです(※例年並みの税率30% → カンファレンスコール発表の今年度見込み25%程で考察)。


これを通年に直すと(Q1のFCFが例年なみだったとすれば)、年26.7億ドルのFCFに当たります。


本企業の時価総額が136億ドル(※)であることから、本企業を丸ごと買収したとしても、これはFCFにより投資元本を5.1年で全額回収できる計算です。


これを指し経営陣はカンファレンスコールで、「本企業はFCFによるキャッシュマシンである。」と発言していましたが、現状、私もそれに同感です。



※本企業の株式数は優先株(時価総額に反映されない株式)が存在しますが、5月10日時点でそれを含め、6億900万株となります。従って時価総額は現在22.3ドル/株 × 6億900万株 = 136億ドルとなります。



現状の本質的価値


このFCFからディスカバリーの本質的価値を、マンガーの言う本質的価値は企業から得られるフリーキャッシュフローの総和である、の方法から計算していきましょう。


ここで、今回の決算では本企業の解析に当たり一つ材料が増えたことが挙げられます。本企業の主な稼ぎ先である米国事業の買収後の成長率が今回初めて示された訳ですが、その営業利益成長は年1%と概ね横這いです。


そのため、現在の年26.7億ドルの利益がこのまま推移する(利益成長0%)場合、そして残念ながらストリーミングの影響により、利益が年5%ずつ減じていく場合のシナリオを考えてみます。




上図は今のまま利益が横這いで推移し、10年後の時価総額がFCFの7倍であった場合のシナリオです。


この場合の得られるFCFの総和は、バフェットの言うように年10%の割引率(S&P 500の長期利回りに相当)で割り引いて計算すると、236億ドルになります。これは今後10年で年10%の利回りに加え、更に74%のリターンが得られる計算です。




次に悲しいことに年-5%ずつ利益が減じていった場合です。さらにここでは、将来の時価総額がFCFの5倍との悲観的な見積もりを行います。


この場合の本質的価値は161億ドル、ここでも本企業の本質的価値は今の価格を上回ります。年10%の利回りに加え、更に18%のリターンが得られることになるのです(※)。



※以下はオマケのちょっと難しい内容です。この0%成長 : -5%成長 : 破産して価値が0になるシナリオが50:49:1で仮に生じるとします。その場合の平均的な本質価値は197億ドルです。ここでケリーモデル(興味がある方は著明バリュー投資家 モニッシュ・パブライ著:ダンドーを参照下さい)を用いて投資すべき資金の割合を算出すると、PFの61%となります。僕は計算前提の間違いも考慮し、この半分以下、25%のPF比率で投資しています。



まとめ


まとめです。


今回、スクリプス合併により売上増は得られているものの、合併にかかる各種コストや、冬季オリンピックが重なったことによるコスト増で各種利益減を来しており、合併の成果を見るには来期以降の決算が重要になることが分かりました。


ただ本企業の利益の殆どを占める米国事業は堅調であり、顧客減の中、営業利益をわずかずつ伸ばし、それを背景に経営陣もFCF見通しを強気に据え置いていることも分かります。


私の考え


本四半期でもディスカバリーの顧客は前年比5%減と、苦戦が続いています。ですが同社は減りゆく顧客を前にしても、前回の決算と同様に売上・営業利益をしっかりと確保しています。


勿論、四半期ごとに業績は変動するものですし、本四半期の結果だけでは確たることは言えません。特に今期はオリンピック時期だったためTV需要は大きく変動しているでしょう。通年の業績を粘り強く見ていく必要があります。



私には今後TVが廃れ行くかどうかは分かりません。ですが例え廃れる産業であったとしても、しっかりと値付けを行い、正しい価格よりも十分安く買えばそこには妙味があるものと考えます。


また、その習慣性により簡単には止められない(特に高齢者において)テレビという産業、そのあらゆる悪材料が積もりゆく中で少しづつ利益を伸ばす姿は、私の目にはかつてのタバコ企業、例えばフィリップス・モリスの姿が重なります。


特にドキュメンタリー番組の市場において最大手のディスカバリーは、ケーブルTV、またストリーミングの契約において価格交渉力が大きく、それは視聴するモダリティに寄らず保たれる可能性が高いかと推測します。


そしてバブルを来したネットフリックスなどの銘柄から最も遠い場所に資金を置くことの重要性、この昔ながらの考え方は今も正しいものだろうと、私は信じています。



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