エルドラド・ゴールド(EGO)の投資判断(3) 金の本質的価値





今回はエルドラドの本質的価値と、その考察に当たり重要な金の本質的価値を考えていきます。




エルドラドの清算価値


その前に一つ。今回は沢山の財務項目が出てきます。ギョッとなり、特に初心者の方は読むのを止めたくなるかも知れません。しかし投資においてどうしてもここは繰り返しの訓練がいる所です。


繰り返すと音楽家における楽譜のように、エンジニアのプログラミング言語のように読んだとたんにアタマに入るようになりますので、ぜひ皆様の保有銘柄等でも繰り返して頂き、初心者の方におきましては、知識より技術として身に付けて貰えればと思います。


バランスシート


※エルドラドの2017年年次報告書より引用。


ではグレアム投資の型通り、「賢明なる投資家」の計算方法を用いて、エルドラドのバランスシートから清算価値を求めていきます。


 Current asset(流動資産)の項目は、Cash and cash equivalents(現金及び現金同等物)、Term deposits(定期預金)、Restricted cash(運用制限付きキャッシュ)、Marketable securities(有価証券)、Accounts receivable(売掛金)、Inventories(棚卸資産)から成ります。


現金は額面の100%、清算時に即時戻ってこないリスクがある売掛金は80%、棚卸資産はその企業の保有する製品の性質によりますが、同社では金・金鉱石など換金価値が見込めるものであることから、額面の70%で計算します。


これにより流動資産の清算価値は6.8億ドルとなります。


次に、金鉱という性質上、本銘柄の簿価の殆どを占めるProperty plant and equipment(有形固定資産)を詳しく見てみましょう。




上図の赤線内のように有形固定資産は、Land and buildings(土地・建物)、Plant and equipment(工場と設備)、Mineral properties and leases(鉱物資産と借地権)から主に成ります。その中でも未だ金鉱に眠る金、Mineral properties and leases(鉱物資産と借地権)がほとんどを占めていますね。


ここで元祖グレアム投資では固定資産を簿価の15%と大幅に安く見積もって評価するのですが、私の場合はちょっと異なります。


というのは、例えば先進国の田舎にある流行らない繊維工場をスクラップする場合は、確かに簿価の15%位でしか清算価値は取れないでしょう。


ですが、金鉱という今のまま再使用・操業出来る資産ではこの考えはそぐわないと思うのです。


この場合は現在のバリュー著明投資家が多く用いる、再生産価値(設備・不動産を再度構築するのにかかる金額)として考えていきます。そして私の場合、今回簿価の50%で清算価値を考えていきます。


そして恐らく、実際の金鉱を0から開発するコストや、同じレベルの金鉱を丸ごと購入するコストに比べれば、5割引という見積もりはそれでもディスカウントされたものと思います。



最後にGoodwill(のれん代)はブランド名・商標などになりますが、倒産時の価値下落を織り込んで15%で計算します。



これで固定資産の清算価値は21.3億ドルとなります。 最後に負債13.7億ドルはそのまま計算すると、清算価値の累計は以下です。



清算価値 = ( 流動資産 + 固定資産 ‐ 負債 ) = 14.4億ドル



現在の時価総額が7.6億ドルですから、ここでは安全域は91%と十分に確保出来ていることになります。


清算価値のまとめと問題点


ですが不動産などと同様に、金鉱を簿価による清算価値で評価する場合、問題となるのはあくまでも金の時価で評価されるということです。


そのため将来的な金価格、つまり金の本質的価値の評価がここでは重要ですね。ここからは当ブログオリジナルの考えをお伝えしましょう。


金の本質的価値


インフレと金



※ジェレミー・シーゲル 株式投資より引用。


上図は金価格の長期推移です。各資産クラスを1ドル分、200年間保有した場合の実質リターン比較になるのですが、ここから分かるのは、金は概ねインフレ率と同程度で価格上昇を続ける性質があることですね。


金の人気がここ200年不変であり、また工業製品や電子部品、ETF、更には中央銀行の金本位制崩壊など時代毎の需要の変化に寄らず、金価格が上昇してきたことが見て取れます。



さて本質的価値とは、マンガーの定義によるとその資産から取り出すことが出来るキャッシュの量のことです。


金は一切の利息を生まず、金を欲する人と産出される量の需給のみで価格が決定されます。これは原油などコモディティ全般に共通した概念です。ですから金の本質的価値とは将来に予想される理論的な売却価格に他なりません。


そのため当分、金が枯渇しないとすれば(※)、(1)金価格をインフレ率で除して、(2)かつ金価格を修飾する短期需給の影響を取り除けば、金の本質的価値が求められることになりますね。


これを式で表すと以下のようになるでしょう。



将来の金価格 = 現在の金の本質価値 × (インフレ率 + 需給) 



※因みに金の残存埋蔵量は4.2万トン、現在までの採掘量は16.6万トンとされ十~数十年後に金が枯渇する可能性はありますが、更なる高深度採掘の技術開発など、原油枯渇に対するシェールオイル革命のように、資源枯渇を乗り切る可能性はあるかと思います。なお金が枯渇してくれば勿論金価格にとってプラスですね。

金の本質的価値


※The capital tribune Japan(http://www.capitaltribune.com/archives/1017)より引用。


上図は過去の金価格をインフレで除し、現在価値に換算した金価格チャートです(1970 ~ 2012年)。このようにインフレの影響を除いたうえで、更に各年の需要・供給の影響を除きます。そのために例えば需給サイクルが一巡する10年程度、ないし更に長期の単位で価格を平均化すれば良いと考えます。


つまり、上図の10年間(ないしもっと長期)移動平均線を引いてみれば良いでしょうし、簡易的には、インフレ率を除した金価格の10年間のレンジ範囲の平均値を見てとれば良いことになります。そこが即ち金の本質的価値の目安と私は考えています。


私の考え


今後の金価格


さてここ10年間の金価格をインフレを除外して平均した場合、その価格は1300-1400ドル/オンスという所です。今の金価格が1300ドル/オンス前後ですから、これは概ねフェアバリューだと個人的に思います。


となると、金価格が上がるも下がるも市場の気分次第、金投資や宝飾・工業などの需給次第ということになりますね。


ここで当たるも八卦、当たらぬも八卦で今後の金価格を予想してみましょう。


※Let's Gold(https://lets-gold.net/chart_gallery/chart_gold_demand.php)より引用。


上図は最近の金需要です。2017年までの金需要低迷は宝飾品の需要減・中央銀行による金購入の需要減・金ETFなど金投資の減少によることが分かります。


金投資の減少は同時期に株式リターンが非常に好調で、市場のボラティリティが著減していたこと、またビットコインの隆盛により金投資意欲が一時的に減退したことが理由に挙げられます。


一方2018年に入って、好調な景況下で宝飾・工業などの金需要は旺盛であり、そして高すぎる株価に対してボラティリティが懸念されるようになってきたことから、景気サイクル後半の定石通りに金価格はじわじわと上昇を始めました。


また2012年の金バブル崩壊後に産金セクターは設備・人員整理を繰り返しつつ6年が経過しており、供給の伸びはピーク時よりも年々減じています。


これらを俯瞰すると、私には金価格が上昇する材料は揃っているように見えます。


エルドラド経営幹部の考え


ここで視線を移し、エルドラド経営陣による自社価値の評価を見てみます。


金鉱会社が将来産出されうる金の現在価値を求め、簿価に記載するのには、いくつかのプロセスがあります。


まずは探鉱・研究を行い鉱山の埋蔵鉱量、また実際に採算ラインに乗る可採粗鉱量、金の年間生産量と鉱山命数を調べます。更に金産出で得られる利益から、操業にかかる建設費(選鉱場等)や開発費(シャフト・開発坑道等)を差し引いた、将来の年あたりフリーキャッシュフローが求められます。


この将来フリーキャッシュフローを一定の利率(将来のインフレ・金価格変動などで減価される見込み)で割り引いて現在価値に換算し、各年の総和が金鉱の価値となる訳です(※)。


※簿価評価にかかる同社の金価格などの設定。エルドラド 2017年年次報告書より引用。


ここでエルドラドの経営陣が簿価見積りに用いている現在の金価格は1300ドル/オンス、今後の年間割引率は5-8%と非常に保守的です。


2012年から今まで金価格が毎年5-6%ずつ下落を続け、最悪の状況を見続けた経営陣だからこその、どうせ将来は金価格は毎年これ位下がるんだろ! という悲観的な見通しが透けてみえますね。そしてこういう見通しをする会社が私は大好きです。



※DCF法が企業決算に用いられています。この将来価値を現在価値に割り引くという方法は、買収など企業価値の基本的な考え方です。バフェットの発言にも頻繁に登場します。投資において必須の考えですので、こちらも是非習熟されるようオススメします。


まとめ


まとめますと、(1) 経営陣は十分に悲観的な見積もりで将来の金価格と金鉱の簿価を見積もり、大して借金もしていないこと、(2) その見積もりよりも市場は更に同社を悲観的に見積もっていること、(3)その相乗効果で同社がネットネット銘柄になっていること、が分かります。


ですから経営陣が今後も簿価を無駄遣いせずじっとしていれば、大量の簿価にやがて市場が気付く可能性が高いだろうと思うのです。


そして金価格の上昇や、株式市場の高いボラティリティ、主力鉱山キスラダグの改装工事進捗、ギリシア政府との訴訟決着などがカタリストとしてはあり得るでしょう。


勿論、金価格が更なる下落に転じたり、経営陣による経営資源の浪費が生じたりなど、ネットネット銘柄でも投資が失敗することはあります。しかし、このように何重にも安全域が掛けられた銘柄だからこそ、コモディテイの典型といえる金鉱に今回私は投資を行いました。


私には金価格が上がるか下がるかは分かりません。ですが、どちらに転んでも本質的に損失を出さない銘柄に投資したいと願っています。そしてこういったシケモクを一つずつ丁寧に積み重ねていくことが、将来の長期的利益に通じるのでは無いか、そのことを信じています。



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12 件のコメント :

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