とある読者からの手紙 - 後編 -





今回は前回に引き続いて、20歳とお若い大学生の方とのやり取りです。


今回はオジさんのお説教が中心になります('ω')


でも、市場で色々な人間模様を見てきましたので、ちょっと気を付けてほしいことがあったのです。




投資と投機と人生と



HYS様



ご質問の背景が分かりましたので、いくつか追加で申し上げておきたいことが御座いまして、再度連絡致しました。


以下恐らく失礼に思われることもあるのではと思いますが、お若いHYS様の今後を鑑み、また私が見てきた市場の経験から気を付けたほうが良いだろうことに関して、老婆心ながらいくつかお伝えしたいと思ったのです。




20歳で2400万円の利益ということは並なことではありませんので、さぞびっくりされたことと思います。


ですがここで、この過大なリターンに関しての問題がいくつかあると思います。




一つは、ビットコインという方法に関してです。


私もそれなりに長い間市場におりますので、これまで沢山の時代ごとのインフルエンサーを見て参りました。


”1年で 〇千万円稼ぐ方法“ “資産を〇年で50倍にする秘訣“ など一見華々しく見える経歴を看板に、今のような好況期にはこういった方が沢山出て参ります。


ですが最初の1億円は稼げていたにせよ、同じ速度で10億円・100億円と着実に利益を積み重ねていく方はまず皆無なのですね。何故でしょうか?


これは資産運用の総合リターンが、複利の乗数の結果であることが原因だと思います。仮に最初の数年間、年50%のリターンを出したとしても、最後の年にリターンが著明なマイナスであれば実質的なリターンはほぼ0になるからです。簡単にいいますと、「最後に0を掛ければ答えは0になる」からなのです。


さて、今回のHYS様の投資を考えますと、ビットコインの投資というものは大変失礼ながら、現状本質的価値に非常に乏しいと判断せざるを得ない、投機と思われる運用に感じます。


投資の父、ベンジャミン・グレアムが定義したように、「投資とは詳細な分析に基づき、元本の安全性を保全しつつ、適切な価格の商品を保有しリターンを得るもの」だと思います。


ここでビットコインは、多大に過剰評価された将来価値に基づく、明確なバブルに見えます(詳細はビットコインの本質的価値 その行く末も参照下さい)。


HYS様が今後も同じような方法で資産を運用するのであれば、いずれ「最後の0」を引き当てる可能性は徐々に高まるものと思いますし、今回の運用も奨学金という云わば生活資金まで用いてレバレッジを効かせ、保有純資産の数倍に当たる運用だったことを考えると、リターンが残っているのは大変な僥倖であったと思います(実際に売却した直後に投機バブルが崩壊したため、これは本当に幸運です)。


 私は投資において、単に数値上のリターンを見ている訳ではありません。重要なのは表面的には見えないどの程度のリスクをとって、リターンに至ったかということです。


 通常相場の良い時期のほうが悪い時期よりも長く、そしてリスクコントロールの真価が明らかになるのは悪い時期です。ただこのリスク意識とその資産管理は「最後の0」を引き当てぬための保険の役目をします。そして、これはまるで火事が起きなくても、保険に入り安心感を抱く、用心深い住宅保有者に似ます。


以上より大変失礼ながら、今後は同様の賭けを再度行わぬのが賢明かと思います。期待値が0、ないし実質的な0 (80-90%減等)の賭けは繰り返すほど、資産全損の危険性が高まるからです。




 もう一つは、2400万円というとても大きな金額です。これは一般的に多くの方の年収6-7年分、また終身働き漸く得ることが出来る大金であるかと思います。


投機の問題点の一つは、労せずして得た大金ほど人を駄目にするものは無いというバフェットの言葉に尽きると思っています。そして、個人的な経験からもこの言葉には多く共感することが御座います。


統計学的には、突如として得られた大きな資産は幸福をもたらすばかりではありません。宝くじの当選者の90%が友人を無くし、45%が得た資産を数年後に無くし、55%が幸福感を得られないとのことです。


存在は意識を規定する、とかつてヘーゲルは言いましたが、この労せずして得られた金額の大きさが人生の舵取りを強く変えてしまう可能性もあるかと思うのです。




最後は投機の持つ依存性です。


依存にはタバコや麻薬などの身体依存性のものから、SNSのような精神依存性のものまでさまざまですが、精神医学的に投機(ギャンブル)には強い精神依存性があるものと思います。


 “最初の一回だけ元本を増やして、この後は堅実に投資するから“ と仰られる方の多くが、結局は同じような投機に暫くして手を出し、破滅に至ることをしばしば見て参りました。


先の宝くじの例で言いますと、再度宝くじを買い続ける人は70%に及ぶそうです。一文無しになる方が45%ですから、ここでは財産を失ってなお宝くじを再度買い続けていることになります。




私にとっての投資は学問です。理論通りに結果が出ることを目指しますし、この広大な学問を生涯でどこまで見られるのかという旅のようなものと思っています。


もし仮に投機的な手段で大きな利益が得られても、それは私の本意とする所ではありませんし、興味を感じません。


また私にとって人生で大切なことは、自分が好きなことをとびきり上手に、好きな人のために行うことです。お金はその副産物に過ぎないと思えます。


HYS様の今回の出来事が、人生の目指すところに向けての良き出発点であること、また慎重に今後の旅の歩みを進めていかれることを願っています。




 小塚 崇史拝



人生の旅



小塚様



小塚様の記事を読み、自身の無知と視野の狭さに改めて気付かされました。


忠告を肝に命じ、心を入れ替えて投資と自身の学問の勉学に励みます。


補足させて頂くと、ビットコインで得たお金は親に貸して家賃を得ることを目的として中古の団地の1室の購入に当てたため、実の所、利益は殆ど残っていません。


重ね重ねになりますが、私の人生において重大な示唆を与えてくださったことを感謝します。




HYSより



最後に


HYSさんは実家の住居費に利益を充てられたようで、ご自身よく考えられた上での、自身が思われる地に足の着いた資金の使い方ではなかろうかと思います。


さて、ビットコインは投機で得られる資金がヒトの心理にいかに作用するかという点や、恐らく皆様の身の回りでも多くの人が次々と投機に興じただろう "伝染性" の点からすると、とても大きな問題を孕んでいると思います。



同じ、或いは非常によく似た状況が再び生じると、それは金融業界と新しい世代に大歓迎されるのだ。そうした世代とは、だいたいが若く、そして例外なく自信に満ち溢れた者たちである。

人間の活動において、金融の世界程歴史がないがしろにされる分野はないのだろう。

過去の経験は、今日の驚異的な発展を評価するだけの洞察力を持たない者の意見として、一笑に付されてしまうのだ。


1990年 ジョン・ケネス・ガルブレイス:バブルの物語(※ハワード・マークス:投資で一番大切な20の教えより引用)



そして、バブルが恐ろしいのは、以下の点にあります。


自分が買うのを止めた株や商品で他人が儲けている。そして自分が買ったものは値を下げ続けている。赤字なのに高値を更新するハイテク株、新規発行株など、賢明でないとして取り合わなかった銘柄が利益を生み続けていると連日報じられている。


ここで、更なる利益を求める欲望、また他人の利益に対する羨望、これが冷静な投資家の判断を遂には誤らせるのです。




マンガーはかつて、「7つの大罪の中で唯一笑えないのは嫉妬だ」と言いました。バブルとともに噴き上がる自分自身のこれら様々な感情が、今後の局面で最も気を付けるべきものではないか、そう私には思えます。



スポンサーリンク



スポンサーリンク


0 件のコメント :