CAIインターナショナルの投資判断(2) ダメージ・コントロール





前回はコンテナリース産業全体の現況をお伝えしてきました。今回は、いよいよCAIインターナショナルの現状を考えていきますね。




CAIインターナショナル


概要


CAIインターナショナルは、1989年に設立されサンフランシスコを拠点とする、コンテナ船へのコンテナリースを主業務とする企業です。


同社は事業のグローバル性を反映し、CAIは米国、欧州、アジア、カリブ海、オーストラリアの13か国に合計23のオフィスを保有しています。


※年次毎の国別売上、CAI年次報告書 2017年度より引用。


そして、地域別売上は米国40%弱、欧州30%、アジア30%となっています。なお、昨今貿易摩擦が懸念されている中国の割合はあまり大きくないようです。




さて、同社は100万個以上のコンテナを自社保有し、船舶貨物でのコンテナリースを主な業務としています。


それ以外にも、買収などにより2011年から鉄道貨車リース、2015年から物流部門も保有し、現在以下の部門に分かれます。



・コンテナリース:
多種の特殊コンテナを短期から長期に渡りリース。

・鉄道貨車リース:
北米における鉄道貨車リース。

・ロジスティクス:
港湾運送・トラック仲介・航空貨物仲介・倉庫保管・税関仲介などの総合的な物流サービス。



※年次毎の部門別売上。


更に売上構成を見るとコンテナリースが70%を占め、鉄道貨車リース10%、ロジスティクス20%となっています。


ここで売上の大多数を占めるメイン部門、コンテナリース部門をまず詳しく見ていきましょう。


コンテナリース




同社が保有するコンテナは、20フィートコンテナ換算で表す容量単位(TEU)で123万TEU相当、また20フィートコンテナへのコスト換算で表す費用対価単位(CEU)で128万CEU相当となっています。


またその構成は、単純な鉄のハコであるドライバンが90%、冷蔵コンテナ4%、特殊コンテナ6%となっています。



また経営上、大変重要なリース契約期間に関しては以下のようになります。



・長期リース:
1年以上のリース。5年間の契約が最も一般的。

・短期リース:
1年以内のリース。

・ファイナンシャルリース:
コンテナ購入の代替手段として用いられる。コンテナの使用期間全てを同じ顧客へ割高の固定価格で長期リースし、期間終了後は顧客が名目価格でコンテナを購入可能となる。





上図からは、同社のコンテナ事業は多くが長期契約で占められ、更に近年は長期契約(長期リース・ファイナンシャルリース)が90%以上と殆どを占めていることが分かります。


なお同業他社で長期契約が占める割合は、先にお伝えした業界一位のTriton 75%、三位Textainer 84%ですので、ここでは本企業の長期契約の割合が大きいことが分かります。



さて、同社の年次報告書に以下の文言があります。



世界のコンテナ輸送量の変動性と不確実性を正確に予測することは本質的に困難であり、当社の管理範囲を超えている。



ここから分かるのは、当のCEO自身もコンテナ船の貨物量は景気次第、予定を立てようがない!分からない!と認めていることですね。


このコンテナ業界の、当のCEOすら先が見えない性質こそが、本銘柄の価格を常に低いレベルに置く要因と言えます。


そして、この中で短期リース率の上昇は経営基盤の不安定化につながることになりますし、安定的に高い長期リースを獲得しているのは一つ大きなプラス材料と言えますね。


鉄道貨車リース


同部門は北米における、鉄道貨車のリースを行っています。


7172両の貨車を保有し、セメント・砂・ガス・石炭・鋼などの工業用品、また食料品など多種多様な物資の輸送に用いられます。


この部門の年々の設備投資の規模は凄まじく、2013年に1800両でしかなかった貨車が2018年に7100両と4倍に増加し、更に2018年には733台を追加購入予定となっています。


景気拡大を見越し、攻めの経営を続けていることが分かりますね。


これにより先述の図のように、ここ5年間で鉄道貨車部門は売上が5倍へと急激に伸長しています。




一方、2017年には僅かながらも部門赤字を計上しており(15・16年は黒字)、業績の不安定さは気にかかる所です。


ロジスティクス


2015年にCAIロジスティクス、2016年にGeneral Transportation Services, Inc. を買収して誕生した部門です。




部門の売上は著増していますが、これは15・16年ともに企業買収を行った結果ですので、自力での成長にあたっては今後の推移を見る必要があると思います。


また鉄道貨車部門でお示しした図のように、ロジスティクスも17年度赤字です(しかも2015-17年と毎年赤字です)。赤字の額としては売上規模からすると小さく、部門売上の3%程と限定的なため全体の業績に大きな影響は与えていないものの、財務上は足手纏いの印象です。


ただ赤字が今のように僅かな範囲で留まるのであれば、鉄道・ロジスティクスのいずれも、本企業では顧客サービス付加の意味合いとして、コンテナ部門と見えない部分のシナジーを生む効果があるとも思えます。



財務諸表


それでは財務諸表を見ていきましょう。


※縦軸の単位は100万ドル。


リーマンショック以降、倒産相次ぐ同業他社を後目に、本企業は売上を6倍、純利益を5倍に増加させています。


ただし景気循環に非常に敏感な産業の特性上、2008年に一度赤字を計上し、2016年も利益の大幅減を来していますね。


ただ、2016年は同業他社が軒並み赤字だった(世界7位のコンテナ海運会社 韓進海運などが破綻に至った)ことを考えると、これはまずまず優秀な成績だと思います。





なお本企業は無配です。


このような景気循環銘柄で下手に配当を出しますと、業績低迷時に配当維持に足を取られ長期低迷を招きかねないため、このスタンスは個人的に好感が持てます。


※縦軸の単位は%。


ROE, ROAは同じく景気循環に一致したサイクルを取ります。


ROAは負債がどうしても大きくなるリース産業の特性上、低くなっています。





フリーキャッシュフロー(以下FCF)は赤字です。これは投資キャッシュフローが大きくなるこういった船舶、自動車、鉱山などでは多くみられる特徴です。


ところで、FCFが一般に黒字であることが良いとされますが、本企業のように純利益が概ね黒字続きの企業において、FCF赤字は "悪" なのでしょうか?


積み上がる簿価


※縦軸の単位はドル。


簿価の推移を見ると、本企業は2008年こそ簿価を減らしたものの、それ以降順調に簿価を伸ばし、簿価は4倍にここ10年で成長していることが分かります。


これらの事実から見て取れるのは、投資キャッシュフローとしてキャッシュフロー上は赤字の原因になる数値が、簿価(本企業の場合はコンテナなどの資産)として企業に蓄積されている、ということです。


つまり得た利益の全てを再投資に回し、ひたすらに資産(主にコンテナ)を増加させ、それが更に売上を押し上げる循環を形成しているのですね。



私が思うに、FCF赤字が続いている企業で、簿価減少と返せるアテも無い負債増加が続き、積み上がった固定資産の減価償却にも財務が耐えられず純利益も赤字が続く企業なら、FCF赤字は正に悪です。


ですが本企業のように簿価であれ、FCF=キャッシュであれ、株主から見て企業に更なるキャッシュを生む価値が蓄積されているのならば私はそれで良いと思っています。



なおこういったFCF赤字の企業のウィークポイントは、投資キャッシュフローが制限出来ない性質のものであれば(研究開発が常に必要となる類の産業であれば)、不況時が長く続いた場合にそれが累積的にキャッシュを食いつぶし、最悪、倒産の憂き目に至ることにあります。




ではここで、本企業はどの位の研究開発費が存続に必要なのか? ということを考えてみます。


上図の投資キャッシュフローの内訳を見ていくと、投資のほぼ全額がレンタル機器購入、即ちコンテナ・貨車の購入なのですね。


つまり今後不況が来たとしても、不況が長く続くなら設備購入を止めれば良い、とシンプルな対応が可能に見えますし、実際、先の長期のキャッシュフロー推移の図で、2009年の不況の底において経営陣は投資キャッシュフローを大きく減じさせ、FCF赤字がほぼ消失するというダメージ・コントロールが上手く出来ています。


よって私にはこのような新規研究開発が少ない、完成された産業(単にコンテナを購入するだけ)、また過去10年ほぼ赤字計上が無いような企業においては、常に技術開発を強いられる自動車業界などとは異なり、出血を最小に留め、不況を乗り切る可能性はかなり高いものと考えます。


勿論古くなったコンテナの買換えやメンテナンスなど最低限の投資は必要でしょうし、不況の中、無謀な設備拡大や買収に走ったりなど経営陣が無謀な行動に出ないかどうかは適時、確認しておく必要があるでしょうね。




まとめ


まとめです。



・本企業は売上・純利益・簿価をここ10年で急増させている。

・そのエンジンは得た利益を全て設備投資に回し、それが更なる資本を生むことにある。

・景気後退期は設備投資(コンテナ購入)を速やかに中止し、被害を抑えることが可能と思われ、実際にリーマンやチャイナショックなど、名だたる不況の中でも赤字を食い止めている。

・長期リースが多いことは、不況時のダメージ軽減に寄与すると思われる。



次回はこれを踏まえ、いよいよ本企業の本質的価値を考えていきます。




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