今回はいよいよCAIインターナショナルの本質的価値を考えていきます。
本質的価値とは
本質的価値を求めるには (1)清算価値を求めるグレアムの方法、(2)ブランド価値を計るバフェットの方法、(3)企業が生むフリーキャッシュフローの総和を計るマンガーの方法、の3つがあります。
グレアムの清算価値
まず(1)の方法で計算していきますと、コンテナを即時売り払い負債を返済したとして、本企業の清算価値は概ね0、つまり清算価値からみた安全域は取れません。
従って本企業の場合は、生み出す収益力の面から本質価値を考えた方が良いでしょう。
バフェットとマンガーによる本質価値
ではバフェットのブランド価値による本質価値の評価はどうでしょう?
ブランド価値とは独占・寡占企業が、その内在的な価値の増加を来すことにその本分があります。本企業のようなコモディティ企業の場合、これにはまずまず当てはまらないでしょうね。
マンガーの企業が生むフリーキャッシュフローの総和=本質的価値、の考えは本企業はフリーキャッシュフローは常に赤字ですので、この考えも用いることは出来ません。
このように従来のバリュー投資の方法を当てはめると、本銘柄、また景気循環銘柄の多くは投資不適格ということになります。
しかし複数の海運不況でも概ね赤字を出さず持ちこたえ、規模を増加させ続ける本企業の企業価値は0なのでしょうか? また世界6位のコンテナリース大手という企業規模に価値はないのでしょうか?
こういった企業を考えるに当たって、ここからは当ブログのオリジナルをお伝えしていきましょう。
簿価成長による本質的価値
増え続けるコンテナ
前回お伝えしたように、本企業は利益の全てをコンテナ等への再投資に回し続けています。
つまり純利益が全て投資キャッシュフロー、即ち簿価として企業内に蓄積され続けているのですね。
この簿価(コンテナ)は10年で4倍、またコンテナが増加する毎にそれに合わせて売上が6倍、純利益が5倍まで増加しています。
そして適正な再投資が成される(ROE,ROAが保たれる)限り、簿価から生みだされる純利益が更にコンテナ購入に回り、更なる利益を生む...という循環を形成している訳です。
さて、ここでBPSの成長率は10年間で16.2%/年となっています。
2010-12年などの海運市況が良い時は年20-30%程の高い成長率、またリーマンやチャイナショック時は成長率は概ね0%に落ち込むのですが、平均しても高い成長率であることが分かります。
そしてPBRは海運市況にも寄りますが、0.3-2倍(平均すると1.2倍)のレンジをとっているようです。
本質価値の計算
ここで質問です。
本企業のPBRは現在(2018年7月20日付)0.7倍です。
(1) BPSが平年並みに年16%成長し、3年後にPBRが同じく0.7倍だった場合、3年後の株価は何倍になるでしょう?
(2) 或いは景気サイクルの後半であることを考え、BPSが年25%成長し、3年後にPBRが過去平均の1.2倍に回帰した場合の3年後株価は何倍でしょう?
(3) 最後に米中貿易摩擦が激化し、残念ながらチャイナショックやリーマンの再来となった場合、BPSが年0%成長、3年後にPBRが0.5倍の場合はどうでしょう?
・・・・・・・
(1)の場合、株価は56%上昇となります。まずまずの結果ですね。
(2)の場合、株価は235%上昇(3.4バガー)となります。これは良い! 今すぐに全財産を投資したい所ですね (*'ω'*) でも待ってください。悪い場合のシナリオもその前に見てみましょう。
(3)の場合は... 悲しいかな株価は29%下落となってしまうのです。
さて、実際の海運市況がどうなるかは神のみぞ知るところなのですが、ここで (1):(2):(3)が1:2:1の確率で起こるとします。
ここはさまざまな考えがあるかと思いますが、景気サイクルの後半に入り、通常は海運市況も活性化することを考えますと、米中貿易摩擦を鑑みても、海運業界の景況横這いないし低下と、上昇の可能性が1:1というのはまずまず順当な読みかと考えています。
この3つのシナリオの平均的なリターンは3年間で124%、2.2バガーということになります。また、3年後の簿価から見た予測PBRは0.31倍です。
このように不況時に赤字が無く、好況時は十分以上に資本効率が良い企業に関しては、(1)簿価から生み出される純利益、(2)その累積による将来の簿価が本質価値を規定することになると、私は考えています。
そして一般的にPBR 0.2-0.3倍の銘柄を購入すれば、将来的には正の倍数の利益が出る可能性が高いものと思っています。
ピットホール
ここで私が思う問題点を挙げていきます。
・収入が枯渇する不況時に、借入金の利払い及び元本支払いは可能か?
・株価が7年ほど横這いだがバリュートラップでは? カタリストには何があり得るのか?
・コモディティ企業では主に価格競争が問題となるものだが、競争力を保ち続ける根拠は?
順に考えていきましょう。
不況時の資金繰り
重厚長大型の産業のネックは1に設備投資費、2に大きな借入金だと思います。
先日お伝えしたように、本企業では不況時に設備投資はストップ可能なのですが、借入金の返済(元本と利払い)は大丈夫なのでしょうか?
本企業は、過去最悪の海運不況、リーマンショックの時には債務借り換えが2009年度のみ困難となり(金融機関による貸し渋りと思われます)、急遽、余剰資金が必要となりました。
従ってリーマンクラスの過去最悪級の不況が再度来たとして、倒産を避けるには元本支払を1年行う体力が必要ということになります。
本企業の簿価は流動資産が1.4億ドル(ほぼ現金同等物)、固定資産が22.5億ドル、一方の負債は18.7億ドル、元本支払いは年5.3億ドルです。
流動資産を全て使用しても、年返済には4億ドル弱が不足しますので、ここでは固定資産(主にコンテナ)を売却する必要があると思われます。
※上図は新品コンテナ残余価値、下図は中古コンテナの残存耐用年数と市場売却価格(2017年末時点)。
ここで上図のコンテナの売却価格は20-ftコンテナでいうと、新品(平均耐用年数13年、減価償却15年)が1050ドル、耐用残存期間12年が1110ドル、7年 1122ドル、5年1038ドルとなっています。
つまり現状は新品とほぼ等価で売却可能なのですね。
これは現在回復しつつある市況の、コンテナ需要の強さを示していると思うのですが、コンテナ売却価格が下落する不況時に、捨て値の簿価の66%位で叩き売ったとしても、1年位の不況であれば持ちこたえることは可能だと思います。そして実際、リーマンやチャイナショックでもほぼ無傷で本企業は持ちこたえているのです。
カタリストは?
本企業の株価はここ10年程横這いで推移しています。チャートからすると... いわゆるテクニカルな魅力は無いですね ('ω') 今後は何が株価浮揚のキッカケとなるのでしょうか?
ここで視点を変え、コンテナリース業界全体の特性を考えてみます。
コンテナリース業界は、景況に寄らず常に人件費やコンテナのメンテナンス費がかかるため経費は大きくなる傾向にあります。海運市況が良くなり売上が増えれば損益分岐点より上の分は全て利益になる一方、不況時は経費が重くのしかかる構造があるのですね。
またこういった企業では、好況時の需要増加を受け各社がレバレッジをかけて設備投資を一斉に行い、逆に不況時にはそれが反転、供給過剰として業界の首をしめることになります。
さて、コンテナ業界の不況が始まった2007年から、既に11年が経過しています。
一方コンテナの寿命は平均で13年です。また破綻する企業もある不況の中、多くの企業では設備投資を手控えつつ経過しています。
※上図はHARPEX index(コンテナ船の運賃指標)、下図はCAIの売上高・純利益。
ここで、2016年に大手コンテナ海運 韓進海運など同業が次々倒産したのを底として、HARPEX(コンテナ船運賃指数)は反発に転じています。
こういった環境下では、設備投資減や企業の倒産による供給の低下がカタリストとなり、株価が一挙に反転へと向かうことが大変に多いです。
これは需要が回復したとしても、一度沈んだコンテナの生産能力は直ぐには回復しないことが背景にあります。
そして調整可能なのは運賃だけなので、調整弁として価格が急騰することになるのですね。
そして、上2つの図からは本企業の損益分岐点はHARPEXでは300付近にあると見て取れ、ここを超える状態が続けば利益は累積的に増加していくことが見込まれる訳です。
競争力を保てるか?
本企業はコモディティに属しますので、重要なのは経営陣の能力です。
先の本質価値の計算には、好況時にROE, ROAを一定の水準に保つ適切な設備投資、不況時に赤字をほぼ出さない経費削減の手腕が前提となります。
ここで過去10年の年次報告書を見るに、今までお伝えしてきたように、経営陣はその時々でやるべきことをやっている印象です。過去最悪級と言って良いここ10年の海運不況の中(バルチック指数は過去30年で最悪、HARPEXは2000年代で最悪)、この10年、同業間で(NYSEのTRTN, TGHと比較)最も優れた業績を残している経営陣です。
今後、彼らが引き続きやってダメな市況ならば、他の経営者でもダメではないかと私には思えます。
そして現況の経営方針にも大きな問題を感じません。
まとめ
まとめ
本企業の利点は以下にあると思われます。
・不況時に赤字を出さず、好況時には簿価を累積的に増加させ、高いROEが更なる簿価の増加を生み続ける企業である。
・リーマン級の不況でも持ちこたえる可能性が高いと思われる。
・同業他社の倒産、海運不況そのものが、コンテナの供給減少を生み、コンテナの経年劣化による不足と相まってカタリストとなる可能性がある。
・経営陣の能力はこれまでの言動を見るに必要十分と思われる。
更に経営陣(CEO)は、最近の貿易摩擦懸念による40%ほどの株価下落を受けるも、自費で(ストックオプションでなく)株式を買い始めています。これは良い兆候です。
ダンドー・フレームワーク
私にはマクロ経済の今後は分かりません。トランプが次にどう発言するのか? また中国やEUがどう反応するのか? それは分かりようの無いことです。
しかしボトムアップ・アプローチで言いますと、リーマンと同程度の海運不況が、リーマン以上の長期で持続しなければ、本企業の本質的価値は動かないものと思いますし、総じて期待値はプラスではないかと思います。
モニッシュ・パブライが言ったダンドーの考え(※)、「コインの表が出れば勝ち、裏が出ても損失は少ないコイントス」に見えるのですね。
このような銘柄を丹念に調べ、勇気を出して買い向かうこと、それが将来の利益に繋がると、私はそう信じています。
※モニッシュ・パブライは米国で次のバフェットと呼ばれるバリュー投資家です。著書、ダンドーは是非ともご一読をおススメします。
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