CAIインターナショナルの投資判断(4) 航海にあたって





今回は2018年10月30日付、CAIインターナショナルの四半期決算を読んでいきます。


本四半期の決算は貿易摩擦への不安に揺れる市況とは裏腹に、大変好調なものでした。このギャップによるサプライズから翌日の市場での本企業の株価は、決算前日比 +20%とかなり強い上昇が得られています。


また本銘柄では、その数日前までアナリストの下方修正(9月下旬ウェルズ・ファーゴが目標株価を22ドルに下方修正)などを材料に連日の安値に沈んでいたものの、上昇した株価の確認後にアナリストが目標株価を設定し直したこと(同社が決算翌日に目標株価を24ドルに再度変更)も、モメンタム形成に一役買っていたものと思います。


このアナリストが株価を確認した後に提示する、「目標」株価を見て取引を行ったことは私は一度もないのですが、こういった価格変動はその成因と市場心理への波及具合からして、いつものことながら興味深く思えます。


では、始めていきましょう。




CAIインターナショナル 四半期業績


※単位は1000ドル。



本四半期では売上は前年同期比 +28%、営業利益 +34%、純利益 +14%増でした。またコンテナ・鉄道リース・ロジスティクスの三部門いずれも増収となっています。



※単位は1000ドル。



地域別に売上を見てみましょう。赤字にあるようにほぼ全ての地域において、本企業の売上は増加傾向にあるものの、ただ唯一青字の Other Asia は大幅な売上減に本四半期は沈んでいますね。


これは昨今の米中の貿易摩擦を反映したものと思います。この本企業の今のところ貿易市況から殆ど打撃を受けていない業績、また北米と欧州に重きを置く特徴からは、当企業は貿易摩擦にある程度の耐性を持つ可能性があるかと感じます。



※単位は1000ドル。



本四半期でも積極的な借入を背景に大量のコンテナ・鉄道貨車の購入がなされており、前述の良好な収益と併せ、この9か月間で簿価は +24%増加しています。



部門別業績


コンテナ


ここからは部門別に業績を見てみましょう。まずはメイン部門のコンテナです。


※CAI IRより作成。単位は1000ドル。



上図ではコンテナ部門が2017-18年にかけて素晴らしい利益・利益率の伸びを見せていることが分かります。これは最近のコンテナへの大規模な投資と、その高い稼働率が結びついた結果と思われます。そしてこれが当企業の本四半期の牽引役となっているのですね。


さて、ではここで過去に視線を向けてみます。


2013-16年を見てみますと、コンテナ部門の売上はほぼ横這いといった所です。これは同時期のコンテナの保有数が同時期横這いだったことが理由です。



※HARPEX指数(コンテナ船運賃指標)。



これは同時期の海運業界が深刻な海運不況の最中にありましたので、コンテナよりも後述する他の部署に経営資源を割き、かつ自社株買いを継続していたことが理由と思われます。


私は資本の投資コストあたりの回収率が低いと思われる場合、他部門への投資・自社株買いを行うことは理に適うものと思います。


そして経営陣は業界の低迷期(2015-16年)を避けて、海運市況が回復を見せた2017-2018年に入ってからコンテナへの大規模な投資を開始しており、業界最悪の不況期も含め業績が堅調に推移していることはその合理的な戦略の結果かと思います。


特にコンテナは耐用年数や、保管にかかる経費の問題などがありますので、底値で購入して待つ云わば典型的なバリュー戦略よりも、業界が回復を示してから購入を開始する順張り戦略が有用と思われ、この経営陣の戦略は合理的と思います。


また逆に2011年と2013年の記録的な株高の際は株価を利用して増資を行っており、FCAと同様、資本を景気循環に応じてアコーディオンのように伸縮させる経営陣の戦略は、実に的確です(※注1)。




※注1:CEOのビクター・ガルシアは2011年6月より現職とのことです。



鉄道リース


※単位は1000ドル。
※稼働実数は決算報告書中の平均鉄道貨車稼働率に、保有鉄道貨車数を掛け、当方が算出したもの。



2012年に開設された鉄道リース部門では、2013→16年にかけて集中した投資がなされ、保有貨車数を大きく伸ばしています。この時期は米国のシェールオイルを始めとした鉄道貨物需要の強力な伸びのあった業界の拡大期でした。よってこの時期の鉄道への投資も、セオリー通りかと思います。




さて、2018年 YTDでの鉄道車両の稼働率は88%と例年より低迷傾向にあり、恐らくこれを背景に近年の利益率は落ち込みを見せています。


ここでは昨年の第3-4四半期にかけて貨車を900台程新規購入しており、この未だリースに回っていない分新規の鉄道貨車も含めると、稼働率はこの9か月間で75-78%というヒドさだったとのことです。ただカンファレンスコールでは本四半期末にはこの新規リース分を含めた稼働率は87%に改善しており、年末には90%に達する見込みとのことでした。


また鉄道貨車の単価当たりリース料も改善傾向にあり、特にタンクローリー貨車(石油・ガスなど運搬)の需要は特に顕著で、リース料は昨年より倍増しているとのことでした。これは米国のシェールオイルの著しい増産ペースから考えても整合性が取れるデータかと思います。


流石に4台のうち1台の貨車が稼働していないのでは赤字も止む無しと思いますし、云わば大量の貨車購入が本年は消化不良になったとの報告ですので、この赤字に関しては数四半期、経過を見る必要があるかと思っています(※注2)。




※注2:
なお2019年第一四半期に貨車納入が予定されているものの、現状それ以降の貨車購入予定はないとのことです。原油価格の下落が最近問題となってきていますが、高値感が出てくると早々に手仕舞いするこの姿勢も、個人的に好感が持てます。




また上図のように原油価格が底を付けた2015-16年をメインに投資が行われています。鉄道貨車はコンテナ(13年位)と異なり減価償却の見積耐用年数でいうと43年間と長期です。よって恐らく底値近くでの設備投資を行った戦略も、理に適うものかと思います。



ロジスティクス


※単位は1000ドル。


ロジスティクス部門は2015・16年に本企業が他企業を続けて買収し誕生した部門です。


売上こそ数年で大きく成長しているものの、未だ殆ど利益を生んでおらず、財務上は前回同様足手まといの印象です。


本四半期の決算説明資料では、本部門は人材確保のためのコストが先行しており、今後鉄道貨物とのシナジーが期待されるとのことです。しかし設立から数年と短く、まずは規模を追う必要がある業界とは言え、数年間赤字が続く部門は財務上のリスクを伴います。


固定費増加・利益率低下を伴う売上増・利益増は、営業レバレッジとして好況期には大きな問題にならないのですが、景気低迷期にはこれが反転し企業の首を絞めることになります。


本企業において、徐々にこの部門が無視できない程に成長し、且つ利益を生んでいないことはよく注意して見ていく必要があると思います。



その他の財務のポイント


負債


※単位は1000ドル。


さて今回は本企業の残債も見ていきましょう。


上図が本四半期での本企業の有利子負債ですが、こういった景気循環企業にありがちなジャンク債並みの高金利で埋め尽くされていること(低信用)は無く、金利は平均して3.8%とリーズナブルなものです(なお昨年同期は3.1%でした、LIBOR:銀行間取引金利の上昇を反映し本年は借入金利が上昇したとのことです)。


また、ここでは固定金利債務が残債の約70%を占めており、今後も財務基盤の安定に寄与するものと思われます。




リース企業は大きな負債で大量の機材を購入するビジネスモデルの関係上、負債の支払利息が大きな問題となります。


一般的に損益計算書では、営業利益から支払利息(+ 税充当額)が差し引かれ純利益が算出されます。ですから負債が大きい企業では、その支払利息があまりに大きくなると、純利益を圧迫することになりますね。


云わばROA(総資産利益率)と、有利子負債にかかる金利との関連が重要となるのですが、今のところ金利が本企業の足枷となっている印象は受けませんし、本企業のように、好況を背景とした金利上昇は企業に金利支払以上の利点をもたらすことも多いかと思います。


税率


なお本年9か月間の実効税率は4.4%となっており、2017年度の同期は1.5%でしたので、いずれも大変低い税率です。


そして長期的にここ10年程を見ても本企業の税率は、10%台とかなり低い水準に抑えられています。


減価償却や損失を駆使し税金をなるべく繰り延べる、ないし最低限に抑えフリーキャッシュフロー・簿価を最大化させるのが、優秀な経営者の条件かと私は思っています。従ってこの数値はとても好感が持てますね。



まとめ


まとめです。



・本四半期はコンテナ部門の強さを反映し、売上・利益増、簿価増と堅調であった。

・北米に重きをおいた事業ポートフォリオであり、貿易摩擦は現状業績の足枷となっていない。

・鉄道リース部門は新規貨車の貸出が終わるまで経過を見る必要があると思われる。

・ロジスティックス部門は赤字はほぼないものの利益を生んでおらず、今のままであれば景気後退期に業績への悪影響が懸念される。

・増資・買収・自社株買いなどが適切な時期になされており、また負債や税務の管理能力からしても、経営陣の能力は必要十分と思われる。



また前四半期で本企業は300万株の自社株買いを発表しています。これは株式数の約15%に及びますので、各種指標の押し上げが期待されます。




さて、カンファレンスコールでCEOのビクター・ガルシアは以下のように発言しています。


我々の経営戦略は一定のものではありません。資産の一部を売却し、コンテナの購入や自社株買いに充てることが合理的と考えられれば我々はそのチャンスを生かすでしょう。部門の縮小も、好機となるならば対応策の一つです。その時により変化するのが経営なのです。


先の見えない航海さながらの海運市況に臨むに当たって、この優秀な船長の存在は実に心強いものかと、個人的には思っています。



最後に


本企業は貿易摩擦ど真ん中の海運業界にあって、比較的小さい規模の企業です。投資の初心者の方におきましては、こういった企業への投資は本当に大丈夫なのだろうか? と懸念する方も多いかと思います。


しかしよく決算報告書を読んでいくと、売上の構成要素(米国が主)や、長期契約が主であるビジネスの構造上、貿易摩擦の影響を避けることは出来ないものの、かなり小さく出来る可能性があり、思っているほどに業績も悪くないことも見て頂けたのではないかと思います。


勿論好業績が続くかどうかは、荒海さながらの海運市況に凪が訪れるのか、それとも嵐が来るのか、ここに大きく左右されます。



・・・



ただ私は思うのです。


不況が来たとしても、全ての海運企業が駆逐されるとはまず私には思えません。優秀な船長とともに、堅牢なファンダメンタルズの船に乗っているかどうか、ここが肝要であるように思います。


嵐が来た時にどう対応するか、追い風ではどうするか、業界を知り尽くし荒海を無傷で超えてきた船長のスキルが必要だと思いますし、更に痛みの少ない頑強な船でなくては、航海は成し遂げられないでしょう。



船に乗るかどうか、そして乗るならどの船に乗るのか。私はこの選択を他人任せにしようとは思いませんし、まして人気投票で決めようとも思いません。


船と船長を良く調べ、天候を調査し、自分の判断でリスクを取ること、そこで初めて安全な航海が期待出来るものかと思っていますし、その重要性を特に投資初心者の方に知っておいて頂きたいと、こう私は思うのです。




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