CAIインターナショナルの投資判断(5)船長の資質






今回は2019年3月5日付、CAIインターナショナルの年次報告書を読んでいきます。


今回の決算は、米中貿易摩擦、そして2018年Q4期間の中長期金利上昇による借入金利増加を反映し、一歩足踏みとでも言うべき内容でした。


これにより決算後の株価は -20%ほどとかなりの下落を示しています。


3か月前の決算で +20%を示した株価が、3か月後には -20%と日に日に激しく動くことは、本当の企業価値が果たしてどこにあるものなのか(或いはどちらも間違っているのではないか)ということを考えるにつれ、市場の動きは面白いものとつくづく思えます。


では年次報告書を読んでいきましょう。




四半期業績



※単位は1000ドル。



本四半期では売上は前年同期比 +22.9%、営業利益 +18.1%、税引前純利益 -7.4%でした。


この純利益減が嫌気され今回の決算報告直後は大きく株価が変動した訳ですが、これは中長期金利が上昇したことに伴い、本企業でも借入金利の上昇に伴って図中のように利払いが増加したこと、また後述するように本企業の財務レバレッジ比率も上昇したこと、そして下図のHARPEX低下から見て取れるように海運業界全体の貿易摩擦によるコンテナ需要減が生じたことが原因です。



※HARPEX指数(コンテナ船運賃指数)。



前四半期では、改善が続く海運市況と、本四半期よりも低かった中長期金利を背景に、税引前純利益は前年比31.4%増でしたから、本四半期はそのギャップに市場が特に落胆したということになります。



※単位は1000ドル。
※米国部門には鉄道リースやロジスティクス部門の売上が合算されていることに、注意を要します。



地域別に売上を見ていきます。


その他のアジア(中国含む)での売上伸び悩みが目立つものの、同部門は本企業においては比率が小さく、前四半期と同じく貿易摩擦の影響は比較的限定的なものかと感じます。



※単位は1000ドル。



また簿価は前四半期から本四半期にかけて、6億9600万→7億100万ドルと概ね横這いといった所です。


ですが本四半期は同業間でも、最大手で一段良質な財務を持つTRTNでさえ簿価減少に沈み、TGHは純利益 -30%減に沈んだヒドい四半期でしたから(※注1)、これらの結果は規模がものをいう海運業界において、本企業の規模の割にかなりの健闘を見せたものと感じています。




※注1:
TRTNは本四半期でも前年比で、税引前純利益 +29%増と流石業界首位の業績ですが、その分多額の配当金(3月23日付株価に対し6.5%程)を出しており、その負担が簿価減の大きな要因と思います(特に現金・現金同等物が半減しています)。このいわゆるタコ足配当が市場に嫌気され、株価下落を生じている事情があります。

またTGHは3社の中でも最も財務状態が不良(後述します)で、株価は慢性に安値にて推移しています。



部門別業績


始めに


ここで質問です。


現在のように海運不況が襲来し、コンテナリース運賃は停滞、更に暫く新規の借り手も付かない見込みが大きく、自社株も安値となった場合に経営陣がとるべき行動、見るべきポイントとは何でしょうか?


・・・


私は企業価値(本企業のような重厚長大型産業においては簿価)の保全こそが、このような局面で経営陣の手腕を測る一番の指標になるかと思います。


というのは前回までの本シリーズでお伝えしてきたように、利益を生む簿価が保全出来ていれば、次回の好況サイクルで簿価と好況時の高いROEを用いた、簿価の複利的増殖が再び可能となるからですね。


そこで本企業のように高レバレッジかつ、大量の減価償却を伴う固定資産(コンテナ+鉄道貨車)を有し、かつボラティリティが高い産業に属する特性からは、このような企業の不況時でのポイントは、以下のようになるかと思います。



・財務レバレッジにおいて、過剰な元本支払い・利払いによる簿価減が無いこと

・営業レバレッジにおいて、利益に乏しい部門の管理が可能なこと(経費・減価償却による赤字の元となります)

・不況の最中こそ極端な安値となりがちな特性を利用し自社株買いを行う、或いは他社買収を行う財務・経営陣を擁すること



では、この点から各部門の業績を見ていきましょう。



コンテナ



※単位は1000ドル。



コンテナ部門の売上高純利益率(税引き前)は本年全体で前年比 +46%ほどと高い成長率を示していますが、本四半期に入り伸び悩みが見え始めたのは先にお伝えした通りです。


コンテナリースは、契約時とリースの契約満了時にのみ価格が再設定可能となっており、且つ5年以上の長期リースが主のため、機器の日当たり平均リースレートはリース開始時に固定されている面が大きく、短期では極端に変動しない特性があります。


コンテナといういかにも業績変動が大きそうな外面と少し異なるビジネスモデルで有る点が、この不況の局面では役立ちますね(勿論不況が長期間持続すれば影響は徐々に拡大します)。


また図からはコンテナ部門が利益の全てを稼ぎ出しており、後述する鉄道リースやロジスティクス部門は、利益創出の面においては何も貢献していないことも分かります。






本四半期のコンテナ保有数(CEU)は、156万8707個となっており、前四半期は154万4276個でしたので、概ね不変といった所ですね。


コンテナはその減価償却期間は13年ほどと短く、利用可能な耐用年数の間にキャッシュフローを得なくてはいけません。これはあたかも減価償却と利益の延々と続くレースの最中に常にいるようなものです。


この短い償却期間を最大限活用するには、コンテナのリースレートが上昇しつつあるときに大きな投資を行う判断が重要と思いますが(コンテナの購入価格も市況低迷時が大体鉄鋼価格の低迷を伴っており安いです)、今回、市況が弱気に傾くと早々に新規投資を控える経営陣のこの姿勢は好感が持てますね。



鉄道リース



鉄道リースでは、本四半期では鉄道貨車台数が7279台となっており、前四半期7489台より削減されています。


更に2月26日付で2146台の貨車を売却する契約締結を発表しており、鉄道部門の3分の1ほどが今後1年間で売却となる方針です。






全鉄道貨車稼働率こそ前四半期→本四半期:84→87%に改善し、賃貸料も2%上昇しているのですが、上図から分かるように、同部門は前年までのシェールオイルで活況を呈していた時期とは打って変わって、苦戦の見え隠れする稼働率となっています。


また前述のように慢性的な営業赤字も続いており、平常時はコンテナ部門に付加価値を生む部門としてPRの意味がある(TRTNやTGHなど同業他社と同じことをするのでは、本企業は規模の経済で遅れを取ります)部門ですが、ここに至っては少なくとも未稼働の鉄道貨車は足手纏と言って差し支えないかと思います。


この2015-16年に主に購入された大量の鉄道貨車を利益確定する判断(鉄道各社が強く停滞した同時期ですから恐らくかなりの安値で仕込んだものかと推測します、年次報告書では本年度及び本四半期で売却益が得られています)は、理に適うものと思います。


また今回ビクター・ガルシア CEOは「総合的な企業利益を最大化するために、この資本を他部門に用いる方針」と発言し、自社株買い及びコンテナ購入に資本配分を行う旨を併せて発表しています。


そして個人的にこれら一連の経営判断は、まずまずのファインプレーかと感じます。



ロジスティクス





ロジスティクス部門も鉄道と同じく、営業利益ほぼ0が続く部門です。


港湾での荷揚げ・倉庫保管・トラック仲介(地元のトラック会社との代替契約:本企業は14000位上のトラック運送会社と提携)・通関仲介の手配などの包括的な物流サービスを提供するのが本部門の特徴です。


同業他社(TRTN・TGH)に無く、本企業ならではの特徴が鉄道及びこちらの部門で、利益をほぼ産まぬながらに、これら部門の存在が顧客と本企業間の一定のアンカーとして作用している部分もあるかと推測しています。


価格競争となりがちな海運業界において、付加価値を付けることで本業のコンテナ部門での料金設定を高く行いうる、PR部門としての存在価値がこれらにあると思うのですね。


その観点から見ていくと、こちらの部門は売上を爆発的に伸ばしつつも、営業赤字を増加させない程度の経費水準を保っており、現状の経費水準であれば存在価値は必要十分かと感じています。



その他の財務のポイント


負債


リース産業では大きな負債の元本支払いと、利払いが利益低迷時には問題となります。







経年的に見ると本企業では企業規模・営業利益の増加は順調なものの、利払いの額も借入額・中長期金利の上昇により増加していることが見て取れます。


具体的に言うと上図のように借入額が増加し、かつ平均借入金利が2016年末→2017年末→2018年末で、2.7→3.3→3.9%に増加しています。


上図で負債合計を見、金利が1%増えると純利益にどのような影響を及ぼすか、試しに計算して頂くと本企業のように負債が大きいリース産業での、債務管理の重要性がお分かり頂けるかと思います。



・・・



さて、しかしこの部分は業界全体の構造的問題(特に中長期金利の変動)も関係していますから、今回は同業他社と比較を行ってみましょう。






NYSEに上場している業界大手のTRTN・TGH(いずれも本企業より大きな業界シェアを持ちます)との比較では、本企業が比較的高いレバレッジを用いつつも、業界最大手TRTNにやや劣る程度のROAを叩き出し、業界随一の簿価成長率であることが見て取れますね(規模の小ささを経営手腕と上手なレバレッジで補っているよう思います)。


そしてもう一つ思うのは、本企業は今よりなお金利が高かった2007年以前もその金利下でさえ、順当に成長を続けてきたということです。


一般にいって預金口座の元金を4倍にすれば、当然に利子も4倍になるものです。


投下資本により得られる収益が、レバレッジにかかる利払い以上の複利リターンを生み(本企業では簿価の増加及び一貫して高いROE)、かつ不況期も含めた長期的成長を生んでこそ、借入の使用に正当性があるものと思います。




また2016年などの海運不況時では、リースレートの低下のみならず、コンテナや鉄道貨車などといった固定資産は需給要因による評価額低減を来しますから、通常は減損や減価償却費増加が、保有資産の評価額減を介して赤字を生むものです(下図のように2016年は減価償却が大きく増し純利益を圧迫しています)。




※単位は1000ドル。
※余談ですが、本企業の決算が面白いのはEBITDAの項に、 " EBITDAは減価償却費・利払いといった必須要素を除外した重大な制限のある項目であり、GAAPによる業績評価の代替とはなりません " とわざわざ併記してあることです。EBITDAやその他の複雑な指標を多々持ち出して株主に目眩ましを行う企業もある中、この姿勢はユニークです。




しかし他の海運大手が苦しむ中で赤字や簿価減を生じず、過去数十年で最悪の海運不況を無傷で切り抜け、この激動の10年で簿価を4倍強に増加させた経営陣の手腕は目を見張るものがあります。


また2015-16年の海運会社倒産が相次ぐ不況期にロジスティック部門を買収し、かつ鉄道貨車を大量に仕込んだバリュー投資にも通じる姿勢は、かつてのテレダインやゼネラル・シネマ(知る人ぞ知る名経営陣が率いた企業です、詳細は "破天荒な経営者たち" をぜひ参照下さい)の名経営陣にも似るかものと思っています。




なお本四半期末では債務のうち固定金利が占める割合が62%となっており、前四半期末のそれは70%でした。ですから市場金利の低下に合わせて固定から変動へ、低利となる借り換えを行っているのが分かりますし、この動きもつくづく優秀です(※注2)。




※注2:
因みに2018年年初では固定金利の割合が40%でした。ここから低金利の間は余計な金利コストのかかる固定金利は避け、金利上昇局面となると一気にヘッジ目的に固定金利の比率を高めていたことが分かります。

またCEOは通常は50:50でヘッジポジションをとるものの、金利変動の局面では柔軟にその比率を変動させる旨、カンファレンスコールにて発言しています。



CEOの自己資金による証券購入



CEOの自社への理解を示す重要な所見として、CEOの保有株にかかる考えがあります。


例えば昨今のハイテク企業のCEOのように、口で自社を礼賛し続けてもその実自身はストックオプションでのみ自社株を取得し、売り続ける一方であっては、自社に対するその信頼の度も知れようものかと思います。


ここでは打ち上げ花火のような企業にはそれに相応しい株主と経営陣が、そして逆に例えばバークシャーのような企業にはそこに相応しい人々が集うものかと思うのです。






※上図の赤丸はCEOの株式購入時、青丸は売却時。
※なお、2019年2月27日付のビクター・ガルシアCEOの総保有株式数は81507株となっています。



さて、本企業のCEOの自社株購入(ストックオプションでは無く自分の財布からの購入履歴をピックしています)を見てみましょう。


ここからは海運業と資本配分のベテランならではの、やはり見事な自社価値への理解が透けて見えますね。


そして現状で、船長が我先に逃げ出す船と、熟練の船長がプライベートでも自分から乗り込む船、果たしてどちらが安全な船なのでしょうか?



決算報告書の構成


もう一つ重要に思う点として、本企業の決算報告書はとても簡潔明快な構成から成ります。


例えば、かつてのGEのように多種多様な異業種のセクターが絡み合っていたり(CEOは本当に全部署を理解・統括出来るのでしょうか?)、かつての東芝のように不可解なキャッシュフローの流れが生じ、理解困難な注釈が存在するというような企業は、その内容を読む以前の問題として要注意かと思います。


他人を欺くCEOは、やがては自分自身も欺くことになるものかと思いますし、この点で分かりやすく読み手に伝えようとする誠実な意思が見え、一度読むと経営陣とのコミュニケーションが成立する、そのような決算報告書が望ましいと私は思うのですね。




最後に


昨今では海運の代表的指数、バルチック海運指数もチャイナ・ショックに並ぶほどの低迷を来たしており、現在の海運業界は中国・欧州発の不況の最中にあると言えるかと思います。


多くの投資家は海運業からは資金を引き揚げ、またこのような環境になるとマクロ経済を先読みして短期の売り買いを繰り返すよう考える向きも多いかと思います。




ですが私は思うのです。


私は、自分が価格の日々小刻みに変動する紙切れを保有しているとは考えていません。


バフェットが嘗て言ったように、経済的な、或いは政治的な問題が起これば都度売却してしまおうという考えで株式を保有すべきでないと思うのです(そして本企業はそのような考えで保有を行う場合は、大きく元本喪失リスクを増す銘柄かと思います)。


入れ替わりが激しい集団の中の顔のない一人としてでは無く、自分の資金を経営陣に委ね、人生の一部を通じて結果を見守る共同投資家で有りたいと思うのですね。




そしてもう一つ。


チャイナ・ショック並みの不況にあって本企業はこの程度の停滞で収まり、更に今は再びレバレッジ企業の呼び水となる低金利環境が訪れつつある局面にも見えます。


こういったことや今までの本企業の歩みを考えると、市場が考えるほどに今後もそう悪いものでも無かろうと、楽観的な見方で船旅を送っています (*'ω'*)





※3月24日、本文の一部訂正・削除しました。



スポンサーリンク



スポンサーリンク


0 件のコメント :