食品・アパレル・小売株がなぜ今売られるのか(1) ミニバブル後の小売業界






米国市場は活況に沸き、上昇し続ける相場は留まるところを知らないようにも見えます。


そんな中でも、苦戦を続け伸び悩むセクターがあります。


百貨店やスーパーマーケットといった小売銘柄、またアパレルや食品といった、小売に関連する銘柄は軒並み2015年の高値から値を落とし、その存在感を次第と小さくしているのです。


そのため現在、主に米国市場を牽引しているセクターは高い利益率を背景としたハイテクセクターと、利上げによる利益増が見込まれる金融セクターなどが主となっています。


本邦の米国株投資家は、銀行やハイテクといったセクターよりも、食品や生活消費財などの高配当株に投資している方が多いのではないかと思います。そのため、上がり続ける株価を尻目に、内心歯がゆい思いをされている方も多いのではないでしょうか。


明暗分かれる米国市場ですが、本シリーズでは、小売りセクターがはたしてこのまま万年の「負け組」として放置されるのかどうか、今後の長期的な展望を考えていきます。





負け組である理由


まず、これらのセクターが負け組となった理由を考察していきましょう。


結論から先にいいますと、その原因は(1)アマゾンを始めとするEコマースの台頭、(2)過剰に乱立したショッピングモールを始めとする小売店舗の存在にあります


順番に考えていきましょう。


2017年の米国での小売の17%がEコマースからと推測されています。このうちアマゾンの売上が全体の44%に迫るとされ、かつ年々着実に成長していることから、その猛烈な勢いが分かります。


次に小売店舗の乱立の問題です。


小売業界はリーマン・ショック後の景気拡大に合わせて、つぎつぎと不動産を取得し、その規模の拡大を続けてきました。


1970年に米国に存在したモールは300ほどでした。それが2017年現在、1200にまで増加しています。既に米国での小売店舗の人口一人当たり面積は、欧州や日本に比べて6倍とされ、その過剰ぶりが分かりますね。


10月25日付のWall Street Journal (英語版)によると2017年4月までに小売店舗2880店が閉店しており、2017年全体では8600店以上が閉店する見込みであるとのことです。


なお、2008年リーマン・ショック時の過去最多件数が6200店ですので、これを大幅に記録更新しそうな見込みとなっています。


同紙ではこの状況を "Brick and mortal retail crisis" と評しており、この表現は言い得て妙なりと思います。


バブル後のいつもの光景


リーマン・ショック以上の速さで崩壊に進む業界ですが、それでは、米国の小売業界はこのまま壊滅へと歩んでいくのでしょうか。


実店舗を訪れる客はいなくなり、伝統的な食品であるハーシーチョコレートやゼネラル・ミルズのハーゲンダッツは誰も食べなくなり、GAPやヘインズ・ブランズといったアパレルも、アマゾンのプライベート・ブランドに駆逐されてしまうのでしょうか?


そして、市場の高い期待を集めるアマゾンが、その期待通りに完全な市場支配を達成するのでしょうか?


私は、新興企業が頭角を現す時、常に繰り返されてきた歴史通り、そうはならないだろうと見ます。


私は現状の小売業界の利益率の低下は、(1)レバレッジをかけて利益率の低い店舗を増やし、かつ投資を行った小売業界が、(2)Eコマースの台頭による競争激化と、(3) そのミニバブル自体の利益の飽和点を超えたことが複合した結果と判断しています


第一に、恐らくEコマースの台頭が無くとも、このような不自然な小売業界のミニバブルとでもいうべき状況は自然と崩壊したでしょう。


第二に、Eコマースが、実店舗が不要であることによる価格競争力の高さ、忙しい共働き世帯が多いミレニアル世代の生活習慣とマッチする利点を有しており、そのため急速に普及したことが、市場に小売りの衰退をより強く印象付けているのです。


常識的なことを非常時も続けるという判断


実店舗は必ず生活に必要なものですので、それが完全になくなることは常識的に考えてあり得ません。


特に、代用品を作ることが実質的に不可能な商品(強力なブランド力に保護されたコカ・コーラなどの商品を考えます)は、この小売バブルが落ち着き、店舗減や在庫整理の影響が落ち着けば、業績は再び上向くことが予想されます。


それでは次回は、崩壊を続ける小売業界の業績の底、そして買いのタイミングに関して考察していこうと思います。




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