当院にもそんな悩みを持つ医師が一人います。
ある月曜日の午前です。消化器内科外来の方で何やら大声が聞こえます。
A医師「これは胃腸炎ですねー!様子を見ていいと思いますよー!」
患者「しかし先生、私の腹痛は本当にただの胃腸炎なのでしょうか…。」
A医師「あーん゛? 私は耳が遠くて聞こえないからね! 大声で話してもらわないと診断を間違っちゃうよ!」
患者「!!!!?」
A医師は60代半ばの壮年医師。患者さん思いで、臨床経験も40年に及ぶ良い医師です。しかし彼には一つ問題があります。耳が最近遠くなってきており、相手に大声でしゃべってもらわないと聞こえないこと、そして何故だか自分も大声でしゃべるようになったことです。
そして本音をズバズバと話すその性格も相まって、外来ではサプライズの連続が生まれます。
さて、次の患者さんが来ました。大分ご高齢の男性のようです。
おじいさん「昨日から腹の左下が痛くて、痛くて。」
A医師「ああ腹の右下ね。うん、わかった、わかった。」
おじいさん「そうなんです、左下が痛くて。」
どうもあまり意思が通じていないようです。しかし外来の歴戦ナースはすかさず耳元でフォローをいれてくれます。
看護師「(耳元で)センセ!左下ですよ!」
A医師「お!?これはやばいやばい。あやうく医療事故起こすところだったぜ。済まなかったねー」
おじいさん「?」
幸い(?)、ばれていないようです。そういえばA医師は、大声でハキハキと喋ってくれて分かりやすいとご高齢の方から人気との話も聞きます。
次は40代くらいの若い男性が外来の前で待っています。診察前にA先生、看護師と事前に撮影した胸部CTの読影です。
ですが、A医師、読影しつつ何やら独り言を呟いています。問題はそれが大きすぎて、外来前にも丸聞こえのことです。
A医師「あ!肺癌がある!これは難しい場所にあるな、危うく見逃すところだったぜ!」
外来看護師「!」
A医師「うちの外科で切ったら、これは切りきれないな。ずばり言うと術中に死ぬな。よしっ!死ぬ前に大学病院に送ろう!!」
外来看護師「!!!!?」
外にもこの会話は丸聞こえです。
前で待っている若い患者さんの顔色は見えませんが、病院に来て結果説明前に死ぬ死ぬ言われて、大丈夫なのでしょうか。
そういえば何やら看護師がこちらを見ています。君子危うきに近寄らず、私は逃げることにします。
そんなA先生ですが、60代半ばになっても未だに外来や内視鏡検査のほかにも、当直(24時間勤務)を月に何度もこなされ、患者さんの状態が悪い時には何日も病院に泊まり込まれる立派な姿勢の先生です。
ある夜、そんなA先生と駅前の安居酒屋でお酒を飲む機会がありました。その中で耳が聞こえないことの話になりました。
A医師「まあ、耳が聞こえないのは、少しだけ困ってるんだよなー、耳が完全に聞こえなくなったら引退するかな!」
私「そ、そうでなんですね・・・( ゚Д゚)」
A医師「だけれどもよ、他に地域医療をやる人もいないから休めないんだよな。それによ、患者の病気の方が休んでくれないんだから、医師が休めないのは仕方がないんだよな。オンボロな身体だけど、まあやれるところまでやってみるよ。」
そういって、鍋をつつきながら、熱燗をちびちびと飲むA先生でした。
それぞれの年の取り方があり、そして年をとったならではの、それぞれの磨かれ方があるのだな、そんなことをふと考える夜でした。
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