フォッシル(FOSL)の投資判断(2) ウェアラブル端末という難敵





前回はフォッシルに吹く逆風が、ブランド業界全般の問題として、(1)米国小売業の過剰投資によるミニバブル崩壊とeコマースの台頭による利益減、(2)欧州で頻発するテロによる旅行客の減少とブランド品の買い控え、(3)中国での贅沢品規制政策にあること、そして時計業界の問題として(4)本銘柄のような比較的安価な腕時計ブランドではウェアラブル端末との競合があることをお伝えしました。


今回、本銘柄を取り巻くこれらのマイナス要因が可逆性のものかを考えていきます。


ブランド不況


米国小売業の業績不振に関しては業界全体のトレンドですので、私はこれは一過性の問題と考えます。


詳細は「食品・アパレル・小売株がなぜ今売られるのか」を参照いただければと思いますが、小売りの不振は(1)需要以上に投資された店舗増設や不動産の購入、(2)かつての小売業からeコマースへの売場のシフトが原因ですから、いずれも時間が解決する問題と考えます。


そして今は無限に見えるアマゾンの成長も、小売り市場自体が無限でない以上、既存の小売店からeコマースへ潜在ニーズが全てシフトし終わった時点で、その成長に限界が見えるのだと思います。


※フォッシル 2017年 Q3 IRより引用。


上図赤字から計算すると米国での売上は、2017年Q3では前年比14.7%減となっていますが、Q1 17.3%減, Q2 16.5%減でしたのでそのマイナス幅が次第と減じてきています。


またヨーロッパでのテロ問題や、中国の政策問題による市況もいずれは底を打つ問題でしょう。上図では、本四半期では欧州・アジアともに売上減少はほぼ止まっているようですね。


この四半期報告だけでは確たることは言えませんが、一般的に言いましても低金利下で全世界的に好況に沸く現状ですから、旺盛な消費者需要を背景に次第とこういった外部要因による数年来の小売り業界の苦境はそろそろ底を打ち、反転ないし横ばいに転じる可能性が高いと思います


なお、フォッシルは2015年10月から2016年9月にかけて、大量の店舗閉鎖(米国284 → 248店、欧州202 → 191店、アジア124 → 117店)を行っています。米国の店舗リストラが最も大規模(全店の12%を閉店!)ですので、米国が売り上げの多くを占める同社では現在の苦境を考えるに当たりこの影響も考慮する必要があるでしょうね


また2017年Q3決算によると、フォッシルの電子商取引額は米国で前年比26%増であり、その他の地域でも増加傾向とのことですから、eコマースへの痛みを伴う移行はまずまず順調なものと推測します。






時計業界の不況


さて、次のウェアラブル端末による時計業界不況の問題は完全に将来は読めません。


アップルウォッチを始めとするスマートウォッチ(タッチディスプレイのもの)、フィットビット・シャオミによるフィットネスバンドなどのウェアラブル端末の広まりによって従来型腕時計、特にフォッシルのような中価格帯の腕時計の販売個数は落ち込みが懸念されています。


しかしウェアラブル端末というものが、まず普遍的なデバイスとして世間に受け入れられるかどうかが問題です。特にフォッシルの顧客は若年の女性を主にしており、この層の顧客においてアップルウォッチが完全にファッションウォッチ市場を破壊してしまうかどうかが大きな問題ですね。


女心と秋の空は私にはよく分かりませんが、こういう困ったときには統計データを見てみましょう。


ウェアラブルの今後


※Wall Street Journal "スマートウォッチ、今後の販売増に期待" 2017年9月4日付より引用。


ウェアラブル機器全体の出荷台数は、2016年は前年比16%増、2017年は前年比16.6%増(2017年9月時点:IDC発表資料)であったと報告されており、上図のように2014年頃の爆発的な勢いはないものの堅調な伸びが続いています。


18-34歳の若年層がそのメインユーザーであり、また初期には男性ユーザーが多かったものの、次第とフィットネス需要の高まりから女性ユーザーが増加してきていることが報告されています。


フォッシルの若年女性を中心とする顧客層は、ウェアラブル機器とまともに重なりますのでこの問題は重要です。


フォッシルの立ち位置


フォッシルは2015年11月に2.6億ドルでウェアラブルメーカーMisfitを買収しました。同社はフィットネス用の活動量計を製造するベンチャーであり、この買収により元来フォッシルが持つファッションウォッチとウェアラブル機器を融合させることが目的です。


また2015年からAndroid Wearを搭載したFossil Qシリーズを市場に投入しています。


Fossil Qには(1)ハイブリッドウォッチ、つまり従来のアナログ式腕時計の外観+スマートフォンとの連携機能(通知受信・アクティビティトラッカー機能など)を備えたもの、(2)スマートウォッチがあります。


※MacRumors "Apple Watch Market Share Declined Over Summer as Rumors Swirled About Series 3 Models With LTE" 2017年11月30日付より引用。
※2017年第3四半期の販売台数、単位は百万台。


スマートウォッチ内では強力なライバルのアップルウォッチに対して、フォッシルのシェアは7%とまずまずですね。


フィットネスバンドも含めたウェアラブル機器全体で見ると、フォッシルのシェアはまだ低いですが、2017年 Q1では同社の全売上の7%がウェアラブル端末であり、Q2では9%、Q3では10%と次第に高い割合を占め、売上が増加傾向にあります。


コモディティという修羅場


しかし、ここでウェアラブルデバイスのコモディティ化がフォッシルに打撃を与えています。


フォッシルのウェアラブル端末の販売価格は20000-30000円と競合と同程度あるいはやや安い価格に設定されており、それにより同社の粗利益率は2011年 56% → 2017年 46%と削り取られています。


先発していたフィットビットも販売数・粗利益率減という業績低迷に苦しんでおり、ウェアラブルの今後がどうなるか容易には見渡せません。


私の考え


まとめますと、米欧中の小売り不況は一過性の問題に過ぎる可能性が高いものの、中価格帯の時計の宿命としてウェアラブル機器に市場を侵食され、かつ参入したウェアラブル業界では価格競争に巻き込まれていることが本銘柄の苦境のポイントです。


このウェアラブル業界がどう推移するか、正直私に正確な未来は分かりません。


ただ常識的に考えて、ファッションウォッチという手元を彩り、気分によって着替えられるアクセサリーとしての需要が完全になくなることはないと思いますし、スマートウォッチやフィットビットなどのやや殺風景な外見の時計だけで女性のオシャレへの関心を完全にカバーするのは無理なのだろうと感じています。


ウェアラブル機器が従来型時計の需要をやや圧迫しつつ、併存する未来が現実的な像であるかと考えます。


そして、フォッシルの業績がたとえ泥沼化したとしても、ファッションウォッチのニーズが完全に消滅せず、辛うじて赤字を出さない程度であっても生存するに十分な位で推移すれば、現在の素晴らしいバリュエーション(PBR 0.5倍)が生きて、投資妙味が生じてきますね。


それでは次回はこういった事柄を踏まえ、フォッシルの本質的価値を考察していきます。




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