CAIインターナショナルの投資判断(6) 嵐の中で



※Fisherman at the Sea   ウィリアム・ターナー作




今回は2019年4月30日付、CAIインターナショナルの第1四半期報告書を読んでいきます。


今回の決算は、昨年末のクリスマスをピークとした海運不況のど真ん中にあり、また中長期金利の上昇による借入金利増を反映した利益減も重なった、厳しい四半期でした。


これを反映し決算の前後を挟んだ株価は- 8%ほどの下落を示しています。


さて、当ブログはこの下落に際しポートフォリオの2%ほどのキャッシュ・ポジションを用いて買増しを行っています。


今回は市場が思う本企業の見方と私の見方がどのように異なるのか、この点決算を見つつお伝えしていきましょう。




四半期業績


損益計算書


※単位は1000ドル。



本四半期での売上は前年同期比 + 16.5%、本四半期では赤字の鉄道貨車売却による一時益がありますので、それを除いた調整済営業利益(当方算出) + 8.0%、調整済税引前純利益(同じく当方算出) - 23.8%となっています。


また上図では2018年同期に比べ株式数が8.7%、2018年末に比べ2.2%減じており、これは先日からの自社株買いの効果と思われます。





経時的に見ていきますと、赤字の各セクターの売上はコンテナ・ロジスティクス部門を中心に顕著な毎年の伸びを示しているものの、鉄道リース部門は本四半期の鉄道貨車売却によって売上減を来していますね。


ただ鉄道リース、ロジスティクス部門はここ数年ほぼ税引き前純利益がマイナスであり(詳細はCAIインターナショナルの投資判断(5)を参照下さい)、稼働率自体が低かった(余っていた)鉄道貨車を売却した判断は的確なものと思います。


が余剰の貨車を売却してなお、鉄道貨車の稼働率は86.7%(前期末 87%)と前回と同程度で低迷しているとのことであり、この部門の稼働率は本四半期では実際には更に低下していたと推測されます。


この鉄道貨車の需要に関しては今後は景気次第の部分が大きいのですが、景況が悪くなった局面であまり資産を安値傾向で売却するのも望ましくないことから、ここは需給の調整を待つしかない所でしょう。




また青字のように(利払い/営業利益)の比率は年々増しており、本企業の財務レバレッジ倍率の増加と、市中全体の中長期金利の増加を反映しています(同じく前回を参照下さい)。


従って利払いにかかる負担増は今後も本企業への負荷となりますから、コンテナ運賃が現在のレベルに留まる限りは、本企業の増益は望みがたいこととなりますし、こういったマクロ要因の各部門の苦境は、我々投資家、経営陣ともに待つしかないところです。




そしてその一方、緑字のBPSはROE 12%という高い資本効率を反映して順当な増加を続けており、市場が思うほどヒドい状況でないことも、また見て取れるかと思います。




※上図は各セクター毎利益、下図はレンタル機器数の推移。



もう少し詳しく各部門を見ていきます。


上述の苦境を反映して、一番目の図では各部門の税引前純利益(赤字)は本年は鉄道貨車の売却益(青字)を除くと全部門で実質減となっていることが分かります。


ですがそんな中、本企業はコンテナへの投資額(緑字及び、下図のコンテナCEU推移)を更に積み上げていることもまた分かります。




※HARPEX指数(コンテナ船運賃指数)



これは先日のクリスマスを底としていたコンテナ船運賃が徐々に上向いてきていることからも分かるように、市場の需要持ち直しが見られつつある時点で更なる買増しを行う点で、的確な行動かと感じています。


普通は市況と業績がこれだけ下落すれば買増しを控える向きが多い中、この徹頭徹尾のバリュー姿勢は共感が持てますね。




貸借対照表


※単位は1000ドル。



簿価を見ていきます。


本四半期末の簿価は上図赤字にあるように、2018年末と比べほぼ不変となっています。ただこの海運不況の最中にあってDebt、及びTotal liabilitiesは削減されており、特に前者は4.5%ほど削減されていることになります。



キャッシュフロー計算書

※単位は1000ドル。



どうやって負債を削減しているのでしょう? キャッシュフロー(CF)計算書を見てみましょう。


赤字の部分を見ていくと、前年同期に比べて本年は営業CFが増加し、そして投資CFが抑えられ(レンタル機器売却が多くなされ、購入分を売却分が上回っていますね)、それにより生じた現金が財務CFとして債務の元本返済に回っていることが分かります。


よって先の鉄道貨車などの余剰なリース機器を売却し、一部を自社株買い、一部を債務返済に充て、簿価を減らさない程度の資本配分として調整しているのですね(※注1)。


ただその中でも投資CFで、新規のレンタル機器にかかる投資額は増加しており、これは前述のコンテナ投資に資本配分が成されただろうことが分かります。



※注1:
得られた現金の全額を債務返済に充てないのは、支払う現金と等価の価値しか得られない債務返済よりも、PBR 0.7倍ほどの当企業の自社株では、(1/0.7 = 1.43倍)ほどの支払う現金に対する価値の違いが出てくることも理由に挙げられると思います。


ここでは本四半期の財務CF支出が9300万ドル程に対し、自社株買いの支出が1400万ドルと、不況のど真ん中にあって債務返済による金利負担削減を行いつつ、併せて自社株買いも行う点、大変面白いです。



負債


負債の質




負債を見ていきます。


本四半期では有利子負債の平均借入金利は3.93%となっています。


これは2016年末→17年末→18年末で、2.7→3.3→3.9%となっていましたので、昨年末と同水準です。


そして現在の固定金利:変動金利借入の比率は65:35となっており、これは金利上昇をやや警戒、ヘッジを置くポジションになっています。


このポジションは本企業の属するリース産業の借入に対する依存度からして、今の金利を考えると悪くないかなと個人的には思います(※注2)。



※注2:
2018年年初→2018年Q3→2018年Q4で、固定金利の割合は40%→70%→62%となっていました。


もし僕が経営者であれば、リーマン後やチャイナショック後のように暫し低金利が見込まれる状況であれば、余計なコストのかかる固定金利は避け、変動金利優位としたポジションを取ると思います。


また金利上昇局面の始まりからは一気に固定金利の比率を高め、金利上昇に応じ変動金利の借入割合を徐々に下げていくだろうと思います。


※米国10年債金利。


というのは上図のように、金利(=インフレ)の行く先は簡単には読み難く、常に当てが外れる可能性も頭においておく必要があるのですね。


そして最悪なのは、(1)仮に急激に高インフレに突入した時、その時点で借入の殆どが変動金利であること、また良くないのは(2)逆に低金利が続く間ずっと固定金利で余計なコストを支払うことです。


よって常にヘッジを置きつつも、インフレに繋がる景況の過熱感を見ながら積極的に変動金利を使用するガルシアCEOのレバレッジの使い方も、個人的には好感を持っています。




レバレッジの出口


本企業はリース産業の特性故にレバレッジ比率が高く、かつリーマン後からの低金利環境を背景にレバレッジ倍率を経時的に高めてきています。


ですが、借りたものはいずれ返す必要があるのですね。


特に景気サイクル後半にインフレ(金利上昇)が生じた場合、大量の借入を使用したままでいることは大変危険です。では、この借入リスクへの対策はあるのでしょうか?



※各年次報告の負債と利払いより当方算出のため参考値。



上図を見ていくと、財務レバレッジ倍率はリーマンショックの前後で3倍、同時期の借入金利は平均4.5%という所でした。


本企業は、この借入量・金利で過去最悪の10年近く断続的に続く海運不況を乗り切ったことになります。


未来はどうなるかは分からぬものの、過去最悪の局面と同じ程度・かつ以前生じたインフレ程度に耐えられる位のデレバレッジは、経営陣には備えておいて欲しい所です。


よって景気循環の最終局面には、財務レバレッジ比率を今の4→3倍位に落とし得るかどうか、この戦略は投資家として事前に蓋然性を考えておくべきかと思うのです。つまりは借入からの出口戦略ですね  (*'ω'*)



デレバレッジの方法


さて貸借対照表からレバレッジ倍率を4→3倍とするには、2億ドル程度の現金を新規に獲得すれば良いことになります。昨年の純利益が7900万ドル程度の本企業において、これは今後の投資を控えればそこまで無理のない額かと思います。



※株式数の単位は100万。



そして上図のように株価上昇に応じて増資(新株発行)を行ってきた実績から、次に景気が改善した場合も増資を行うだろうことが予測されるのですね。


発行株式数の10-20%程の増資を、本企業がPBR 1.2-1.4倍ほどに改善した際に段階的に行えば、レバレッジは削減可能かと個人的には見ています。


更に経営陣としては、この管理可能な範囲でレバレッジを調節しているのだろうことが財務からは私は見て取れるよう思います。




またカンファレンスコールでガルシアCEOは、鉄道リースとロジスティクス部門では現に現金が失われており、今は回復している市況のため様子を見ているものの、あらゆる選択肢があり得ることを発言しています。


手元に置いていればPBR 0.7倍と圧縮されて評価されていた資産が、今回のように売りに出せばそれ以上の簿価で評価されるため、ここはFCAと同様に優秀なCEOの元では隠れ資産が存在する点は見逃せない所かと思います。




そして良いシナリオが仮に実現しなかったとしても、貿易摩擦の底にあり赤字にもならぬ程度の苦境で済んでいる点、これが一つ今回の買増しの根拠となります。



マクロ経済


そうは言いつつも、本企業を始めとするコンテナリース企業の浮沈には、その売上と利益率を規定するコンテナ船の(1)運賃、(2)金利が大きな影響を与えますし、ここが気にかかる方も多いかと思います。


マクロ経済を正確に見通すのは勿論不可能ですから、ここは当たるも八卦、当たらぬも八卦で、今後の私のマクロにかかる見通しをお伝えしましょう。



売り急ぐ人、惑わす市場



※出典:三井住友銀行 海運市況動向と戦略の変化



コンテナ船の運賃は、船腹需要と供給によって規定されます。


上図を見比べていくと、2007年の好況に向かう中では船腹需要もまた活性化しています。


しかし供給は不況後の生産縮小から立ち上がり、更に発注した船が建造されるまでに数年の時間がかかるのですね。そのタイムラグ故に、生産が回復しきった時には既に景気サイクルの最後半に差し掛かっており、必然的に過剰船腹が次の海運不況のサイクルを深刻化させることとなります。






これは例えば上図の世界GDP成長率と荷動き量の比較で見てみると、より明らかですね。


全てのプレーヤーが一斉に欲望に駆られ、また不況時にはその逆を呈すると、人間の心理を反映するが故の実体経済の成長率にレバレッジを掛けたような激しい上下動こそが海運市況の特徴なのです。


そしてここには、明確な周期性があるものと思います。







過去30年ほどで最悪の海運不況にあった2016年を中心として、新造船の需要は停滞し、その間上図のように解散船腹数は積み上げられています。



※HARPEX指数(コンテナ船運賃指数)



そして運賃を見ても分かるように、一度落ち込んだ船腹数は直ぐには回復しませんので需給の調節弁は価格以外には存在しないということになり、短期間に運賃が数倍に跳ね上がるという構造がある訳です。これはリーマンショック前後では、実に7倍の運賃差に及びました。


直近を見ていくと2016年を底としコンテナ運賃は改善にありますし、再度同程度の景気低迷が襲った本四半期においても運賃価格は底を保っています。


ここには船腹数・コンテナ数などの需要減以上に、それらが供給不足に至っているという単純な物量の問題がそこにはあるものと思っています。



世界の成長


世界の貿易量自体は1980年代から年平均7.7%の成長率を続けており、堅調な成長が今後も長期的に予想されています。


これは米国を含む先進国の成長があるのは勿論ですが、成長著しい新興国各国が一段寄与していることが背景にあります。






上図を見ていくと、貿易量は全体に成長しつつ、特にドルの実質実効為替レート(ドルインデックスからインフレ率を除外したもの)でのドル安時に、強く伸びを示す傾向のあることが分かるかと思います。



私の考え


私にはこの先トランプが、中国が、欧州がどのように動くかは分かりません。


ですが過去30年で最高レベルの実質的なドル高・船舶需給ギャップ、最低レベルのコンテナ船運賃と、長期的に向かうべきベクトルは全て同じ方向のように見えるのですね。


また各国ともに、各々のプレイヤーが本気で景気後退を望んでいる訳では無く、彼らが神の見えざる手(市場の需給調整能力)による市場の値動きを見ている限り、過去は繰り返される可能性が高いものと思っています。


一般に景気循環の振り子は、振り子が片方に近づく程に反発力は自然強くなるものと思います。その意味で将来における損益の非対称性が、本企業を始めとする海運業には存在するのだろうと思うのです。




その他


なお前回お伝えしたリース制度の改定は、2019年1月1日付で本企業にも適用が開始されています。


決算報告によると、それによる影響は貸手である本企業では損益計算書・キャッシュフローの面で見られないとのことです。





最後に


米国と中国が争うマクロの世界は、天候の予測が立たない、荒海さながらの状況を呈しているように思います。


そして相場というものは一般に、水平線上に不況が黒雲のように微かでも見えようものならば瞬く間に暴落を始め、その逆もまた然りです。


行く先も見えぬ云わば夜の海で必要なこと、それは見える筈がない水平線を凝視することなどよりも、羅針盤や海図で今現在の航海の確実性を見返すことかと思うのです。


見るべきは株価では無く、個別企業の実体、則ち経営陣の能力を含めた簿価や収益を維持する力だと思うのですね。





このような局面では投資の初心者の方に於きましては、株価の下落にビックリし処分を考慮される方も居られるものと思います。


ですが分かる筈も無い株価の先を心配するよりも、もっと重要なことは企業の実体が着実かどうか確認し、それが確かであれば、経営陣と共に同じ船に乗り続けることかと私は考えています。


そしてそれは株式投資を始めた当初には、誰もがそう思っていたことではなかったでしょうか?






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