ディスカバリー・コミュニケーションズ(DISCA)の投資判断(7) 2018年Q3決算 テクノロジーの値段






今回は、2018年第3四半期のディスカバリーの決算を見ていきます。




ディスカバリー四半期業績



※Discovery Inc. 2018年 Q3決算より引用。



本四半期の売上は前年比57%増、営業利益-15%減でした。


前回までと同様、この決算内容には (1) この1年以内に買収を行ったScripps関連の一時的経費(合併コスト・リストラ費用など)が業績に含まれ、(2) Scripps, OWNブランド, MTGブランドといった新規に取得したチャンネルが上乗せされています。


よって決算を考えるに当たって、この影響を除く必要があります。




※Pro Forma Financial Results。上図は3ヶ月間、下図は9か月間での業績推移。



上図赤字のPro Forma(前年比較のための補正営業利益)は、2017年Q1開始時からスクリプス、OWN・MTGチャンネルを保有していたと仮定し、買収関連費用や会計処理の変更などを調整した数値です。


このPro Formaを見ていくと、昨年から今年にかけて四半期売上は2%増、Adjusted OIBDA(注1)は18%増と増収増益になっていることが分かります。


更に本四半期と本年9か月間を比較すると、Adjusted OIBDA増加率は 6→18%に大きく伸びていることが分かりますね。


ここで上図2つを比べると、本四半期では Cost of Revenues excluding depreciation and amortization (減価償却費等を除く売上原価)が減じていることが、この利益増の主因と思われます。


同種の企業が合併することによるシナジー、つまり人材・機材などの共有化による経費削減がスクリプス買収の大きな目的でしたので、この数値は一つ良い材料に見えます。


ここからは少し詳しく、業績を米国内・米国外のセグメント別に見てみましょう。




※注1:
なお Adjusted OIBDAは営業利益に、減価償却費、減損、企業再編にかかる買収・統合にかかるコストなどを足し合わせ調節した数値となります。


よく用いられるEBITDAは、純利益に減価償却費・税・支払利息を加えて算出されますが、OIBDAは営業利益にそれらを加え算出しますので、直接の本業からの収入を反映するという点に違いがあります。


国によって減価償却の方法などが異なる問題を解決するため、グローバル企業で時に用いられますが、M&Aを行う企業ではEBIDTAと同様に莫大となった減価償却費の影響を足し戻し、利益を大きく見せたいときにも使用(悪用)可能となるため、FCFも良く見ておくなどの注意を要します。



部門別業績



米国


※上図は3ヶ月間、下図は9か月間での米国部門の業績推移。



米国部門は、本企業の売上と利益の大半を稼ぐ主力部門です。


本四半期の米国部門はPro Formaベースで(上図赤字)、Distribution (番組配信)は前年横這いながら、Advertising(広告)は売上5%増、更にOIBDAも13%増となっています。


これは過去9か月間と比較してみると、本四半期では僅かに広告売上が伸長していること、そして売上原価とSGA費(Selling, general and administrative:販売費および一般管理費)が減じた結果であることが分かります。


これは先程お伝えした合併によるコスト削減、シナジー効果が現れ始めているとのことであり、まずまずの結果と言えそうです。


またPro Formaベースで、番組ポートフォリオの加入者数が5%減少しつつこの結果とのことです。広告売上増にはデジタルコンテンツによる継続的な収益化が寄与したとのことであり、オンライン視聴・スキニーバンドルが徐々に同社の業績の支えとなっていることが推測されます。


米国外



※上図は3ヶ月間、下図は9か月間での米国外部門の業績推移。



本四半期ではPro Formaベースで(上図赤字)、Distribution(番組配信)は売上3%増、Advertising(広告)は売上2%増、更にOIBDAも27%増となっています。


なお本年のQ1では米国外事業は冬季オリンピックが開催され、その一時的影響により業績が修飾(売上増・但し経費増による利益減:詳細はこちら)されていました。


そしてその後オリンピック終了後の前四半期(Q2:詳細はこちら)と本四半期(Q3)を見てみると、いずれも前年比で同じく増収増益となっています。


米国外事業は毎四半期毎に利幅のバラツキが大きく、引き続き注意して見ていく必要はありますが、増収増益が2四半期続いていることから、今回も一安心という所です。




更に米国外事業でも、本四半期では売上原価とSGA費(Selling, general and administrative:販売費および一般管理費)が減じており、これはScripps買収によるコスト削減効果(シナジー)が表れているとのことでした。


また9か月間での売上原価とSGA費用の増加は、オリンピックの支出増も含まれ注意を要しますが、全体としてScripps買収後からシナジーによるコスト削減効果が表れているとのことです。



経営陣の考え


カンファレンスコール及びその後の発表によると、同社は2019年度を目途にScripps合併による少なくとも6億ドルのシナジー効果を期待し、フリーキャッシュフロー(FCF)を30億ドルに到達させる見込みを維持しています。


また12月からのHulu Live TVの開始、Sling TVのサービスを秋に拡大したことに加え、将来的にYou tube TVでディスカバリーが利用出来るようになることを発表しました(時期未定)。


そして米国での番組配信は来年度これらオンライン配信サービスにより大幅な増収が見込まれ、またSling TVとHuluは400万人のポートフォリオ加入者が見込まれるとのことです。


ただ残念なニュースもあり、12月3日の発表によるとQ4の米国での広告収入は、Q3カンファレンスコールで発表された前年比3-5%増 → 2-3%増に下方修正され、これは同社の番組 " Fast 'N loud " の製作遅れにより広告格付けが下がってしまったためとのことです。



経営陣は、カンファレンスコールで以下のようにコメントしています。




・世界中で多チャンネル・高料金の従来型TVプログラムから、オンライン・スキニーバンドルへの大きな流れが見られ、そこに同社も注力しデジタルポートフォリオへ投資し続けている。

・ニッチな番組ポートフォリオ群は、ディズニー同様の競争力を有すると考えている。

・従来型TVプログラム自体は衰退するだろうが、TV全体が年8-9%衰退しているのに比し同社は1%成長を遂げており、この状況が続くかどうかは定かでないが少なくとも年8-9%衰退するとは考え難い。

・FANG各社への番組提供を視野に入れている。




オンラインサービスへの注力の必要性や、自社の強み(ニッチ分野における寡占力)への理解、適切な資産配分(割安での優良資産買収:Scripps)など、実に現実的な視点で自社の立場を捉えており、私はこの点、経営陣の能力は必要十分かと感じています。



フリーキャッシュフロー


もの言うは現物


それでは本質的価値を考察していきます。


本質的価値は何時もの様にFCFから算出する訳ですが、その前に今回は同社のFCFの妥当性をまず評価してみましょう。




これには2つ理由があります。


まず本当に経営陣の言う年30億ドルのFCF目標(シナジー効果 6億ドル)が実現可能なのか? ということの確認です。ここは本質価値の評価で最も重要な部分ですし、本年はScripps合併やそれによるコスト増、また逆にシナジーによるコスト削減など様々な要因が絡み合っています。なのでその分補正するため計算しなおす必要があるのですね。


そして今回はScripps合併から3四半期と時間が経ち、FCFの四半期推移も見られるようになったため、ようやく現実的な評価が可能となってきています。




二つ目には上記でお伝えしたように、Pro FormaベースでのOIBDAは改善を続けています。ですがこのPro Formaという数値、こちらはあくまでも会計で作り直した数値となります。作為的意図が入り込む可能性がある以上、客観的な指標でも本企業の業績改善を確認する必要があるでしょう。




私が本企業でFCFを業績評価の中心に置いているのは、この指標は現金の純粋な流れを表し、これは企業や銀行との取引では相手方とのキャッシュの流れがある以上、虚偽の記載を大変行いにくいことが理由にあります。


純利益などの他の指標が幾ら改善していようと、それがFCFに表れていなければ虚偽の可能性含め何か不都合が起きている可能性もあり、要注意と考える訳です。


また当社のようなメディア企業においてはFCFは通年大変安定した推移をし、その予測が比較的容易であることも、企業価値を図る指標として優れます。



スクリプス合併費用


※営業利益→OIBDAへの換算表。


合併にかかる一過性コストですが、2017→18年にかけリストラ費 6億1900万ドル、Scripps 統合コスト 7700万ドルの増加を要しており、合計6億9600万ドルの一過性コストが生じたことが見て取れます。


これは年間FCFが25-30億ドル規模の本企業において、本年はかなり大きい負担が生じていることが分かりますね。



FCFの妥当性


ではFCFから上記の合併にかかるコストを除き、さらに税制等の関係上、前年と本年で税率が異なるため、税引き前FCFとして計算し直してみます(※注2)。



※Discovery決算報告書より当方が作成。



さて上図のように税金や合併費用を除くと、FCFは本年に入ってからの9か月間で前年比 + 1.7億ドル成長し、特にこの3か月間は前年比 + 1.6億ドルと順当に成長していることが分かります。


2018年Q1は冬季オリンピックによるコスト増が生じていましたので(オリンピックのコストは決算で未公開)、本年9か月間でのFCFは下方に修飾されているでしょう。


ですがここ3か月を見ると、恐らく先のOIBDAの結果通りに売上減価・SGA費減少などのコスト削減効果が生じていることが見て取れますね。



2017年度の(Discovery + Scripps)のFCFは合計で25.7億ドルでした(※注2)。そして経営陣は、2019年度末-2020年Q1頃には合計6億ドルのコスト削減によるシナジーを生み、FCFを30億ドルに改善するとの方針です。


今のペースから言うと、私はこれは現実的な(そして少々控えめな)数値と見えます。




※注2:
2017年度の(Discovery + Scripps)のFCFは、異なる企業同士の単純な足し算より算出しておりあくまで参考値となります。



本質的価値


この年間30億ドルのFCFは高い確率で達成されるものと思いますので、これを基に本企業の本質的価値を再評価していきます。


FCFの今後の見通しでは、従来型TVプログラムが減少傾向にありその影響から売上が年2-4%程度しか成長していない現状が影を投げかけています。オンライン視聴が徐々に伸びているという好材料があるものの、今後更に従来型TVが衰退する可能性も加味し、売上成長率=FCF成長率は0%と悲観的に想定します(本企業では売上とFCFがほぼパラレルに相関します)。



※単位は100万ドル。



FCFは2019年が30億ドル、その後はFCFが横這いで推移し、5年後に本企業がFCFの10倍で評価されているものとすると(過去10年で最低レベルの株価FCF倍率であり、厳しめの見積もりかと思います)5年間で本企業から取り出せる現金の総量=本質的価値は330億ドルになります。


これは現在の時価総額が178億6000万ドルですので、85%のリターン(更に年間10%の利回り)が得られる計算です。


なおここでは、2019年度の予測株価FCF倍率は5.95倍となります(経営陣の見込む年30億ドルのFCFを使用)。



負債




Scripps買収にかかり、Debtの総額は2017年Q2 82億ドル→ 2018年 Q1 195億ドルとかなりの借入を行っています。


但し年間FCFが25-30億ドル規模の当企業において、これはFCFの6倍程度と実に健全な水準です。


更にDebtは2018年 Q1からQ3にかけて195億ドル→176億ドルと順当に削減され、本企業のキャッシュ製造能力が裏付けられています。


また金利は上図のように平均して4%程度と思われ、こちらも返済に問題無い水準です。



テクノロジーの値段


変わる風向き


四半期を経るごとに徐々に合併後の業績が明らかになり、霧が徐々に晴れるように本企業の推定される価値も不確実性を減じつつあります。そしてそれに対応して本企業の株価も上昇し始めています。



※紫:アマゾン株価、青:ディスカバリー株価。



こちらはハイテクの雄たるアマゾンと本企業の株価チャートです。年初にこのような結果になると、市場で考えていた人は多くなかったのではないでしょうか?




・・・・・




また来期売上が一過性にわずかに減じる見込みとのCEOの発言を受け、最近の株価は下落傾向にあります。


よく業績そのものを見れば売上の1%程度が減じたからといって、さほど大きなインパクトを生まぬものと思いますし、先日発表されたばかりの好材料(Hulu, Youtubeへの番組提供)を完全に市場が忘れてしまっていることも不思議に思えます。


寧ろ何時もながら、市場が不確実性(リスク=価値の下落と異なります)を大変に嫌う特性を感じます。


また市場がハイテクに付けた高すぎる価格と、本企業がYoutube・Huluなどハイテクに加入するにも関わらず改善されない安い価格、この2つのコントラストが私には一層興味深く思われます。


最後に


人は急行列車に乗り込むけれど、自分たちが何を探しているのかわかっちゃいない。やたらと動き回るだけで、自分たちが堂々巡りしていることに気づいちゃいないんだ(サン=テグジュペリ著:星の王子さまより)。



12月に入ってから一層の弱気相場となり、今のようにボラティリティが高い市況では株を見たくもなくなる、ないし値が下がった株を投げ売りしたくなる、様々な心の動きが各人の中に生じてくるものと思います。


ただ私は思うのです。


投資とは企業を買うことです。金を払って株券を預かることではありません。上げ局面でも下げ局面に関わらず注視すべきは事業の中身であって、株価の動向では無い筈です。今こそ事業内容をよく注視すべきと思います。


そして大幅に過大評価されていたハイテク・半導体の株価が今後どうなるのか、過小評価されていたセクターの評価がどうなるのか、この点も投資初心者の方は経過をよく見ておいていただければと思います。


今の局面で恐怖が無い方は恐らく居らぬだろうと思いますが、こういった時にこそ投資に対する各人の姿勢が問われるのではないか、よくよく考えて次の一手を打つべきと、私自身そう感じています。





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