ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)の投資判断(1) 寡占企業は永続する利益をもたらすか





今回は米国通信業界2位の大手企業、ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)を考察していきます。


数社により寡占化されている米国の通信事業セクターの銘柄は、その寡占の事実と高配当によって、日本の投資家にも人気の銘柄だと思います。


同社は、1980年代に米国で圧倒的なシェアを誇っていたAT&Tが、その独占の弊害を懸念した米国政府により分割されたことに始まります。ベル・アトランティックとして再出発した同社は1998年に他の通信会社を買収し、ベライゾンと社名を変更して今に至ります。


独占を防ぐために政府により分割された通信業界ですが、現在は自由競争の名のもとに再度同社とAT&Tの2社による寡占市場となっているのは皮肉なことです。


過当競争の通信業界


米国の通信業界は、ベライゾンとAT&Tの2社で70%ほどのシェアを持ち、そこにTモバイルとスプリントが追従する構図となっています。


このセクターは多額の設備投資を必要とする産業構造上、主要なプレイヤーは少ないですが、既に100%を超えたスマートホンの普及率により、企業同士が限られたパイ = 契約者を奪い合う消耗戦が現状続いています。


ソフトバンクが買収したスプリントに至っては10年間赤字を出し続けていたという(よく倒産していないものです)、激しい競争の業界になっているのです。


ベライゾンの業績


さて、同社の部門を見ていきましょう。主力部門はWireless, Wireline部門の二つです。


・Wireless: 4G回線などの高速モバイル通信事業

・Wireline: 光回線やケーブルTVなどのブロードバンド回線、クラウドやデータセンターサービス、セキュリティサービス


※ベライゾン・コミュニケーションズ IR 2016より引用。


Wirelessが売上の70%、Wirelineが25%を挙げる事業構造になっています。


続けて財務諸表を見ていきましょう。




売上は成長しているものの、純利益は激しい競争を反映して殆ど伸びず、2008年には赤字も見られます。




EPSはバラツキが大きいですね。何とかこの10年間全体で見れば成長しているようにも見えますが、業界の競争環境の変動や、景気循環などの外的要因によってはすぐに赤字転落しそうにも見えます。


配当金はそんな中でも、何とか増配を続けているようです。


※縦軸の単位は%。


ROEは赤字決算が含まれると評価不能になりますので、本銘柄では代わってROAをお示しします。


非常に毎年の収益のバラツキが大きい構造はここでも変わりませんね。




辛うじてここ10年は増配を維持してきましたが、収入を超える配当の維持、設備投資、後述する企業買収などによりBPSは削り取られています。


BPSは4ドル前後と、次の業績不振時に年2ドル/株を超える配当が維持できるかどうかは疑問な水準にまで低下しています。




キャッシュフローは、設備投資に高い支出を要し続ける産業構造を反映して、フリーキャッシュフローの比率は低く抑えられています。


以上を総括して、受ける印象を一言で言いますと、コモディティーに属する産業、というのが私の感想です。


基本的に通信業界というのは、どの業者を使用してもそのサービス内容に本質的に大きな差異は無く、その競争力は価格、つまり値引きによって主に規定されます。


分割された通信会社が、再度体力の強い大企業数社に統合され、更にその残った大企業同士も泥沼の消耗戦を繰り返している事実が、その産業構造の実態をよく表しているように思います。


ベライゾンの生き残り戦略


さて、激しい競争に晒されている通信大手各社は、生き残りをかけて様々な戦略を打ち出しています。


ベライゾンはメディア企業への転換を図ろうとしており、2015年にネット広告事業やニュースサイト、ハフィントンポストを傘下に持つAOLを買収、2017年にはネット大手 Yahooを買収しています。


これによって、デジタル広告の分野において、GoogleとFacebookに次ぐ(はるかに離れてはいるものの)、第3位の座となりました。


私見としては、既にポータルサイトとして「堀」を確立させたGoogleに、門外漢というべき通信産業のベライゾンがこれから挑むのは、成功する確率の方が低い賭けだと感じています。


また2015年からモバイル動画アプリ、ゴー90にも2億ドル規模の出資を行っていますが、既にNetflix、Hulu、Amazonを始めとする先発の競合が多数存在する中、その出先は厳しく、各種のレビューでは制作コンテンツの酷評を受けています。


※MSNマネーより引用。


この業績を受けて1997年から現在まで、同銘柄の株価はほぼ同じ水準で推移しており、配当分のみが株主利益となる構図が長らく続いています。


それでは、次回はこのような状態で続く高配当が、今後も株主にリターンをもたらし続けるのか、その考察を行っていきます。




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