シーゲル投資の問題点(3) 10種・コア10種高配当戦略の問題点



シーゲル投資の中核になっている考えに、彼が「10種」または「コア10種」と呼んだ投資法があります。


10種とは市場から配当利回りが最も高い10銘柄、またコア10種とは配当利回りが最も高くかつ過去15年間に一度も減配していないグループの中から10銘柄を選別し、配当の再投資を行いつつ長期的に高リターンを目指す投資法です。


※ジェレミー・シーゲル著 株式投資の未来より引用。


実際に1957-2003年の期間内において、そのリターンは10種、コア10種ともに、S&P 500のリターンを大きく上回るものだったと紹介されています。


配当を持続的に高く維持する企業は、安定した収益力を有し、財務基盤が堅牢であろうことがその投資根拠となっているようです


さて一見、非常に優れたロジックに見えるこの戦略ですが、現実的に何故この10種の恩恵によるシーゲル長者たちが出現してこないのか、今回はこの10種、コア10種戦略を考察します。




高配当10種戦略


低PER = 高配当になりうるという問題





上図は彼の株式投資の未来の中にある別の図表です。


この図はS&P 500の中で、毎年PER毎に5つのグループに分け、その最も高い群、低い群を毎年購入しなおしつつ保有した場合の各リターンです。


この低PERの群は、先ほどの10種、コア10種と驚くほどグラフの形やリターンが似ていることに気づかれる方も居られると思います。


一般的に高配当の銘柄は、何らかの悪材料で市場からは放置されている銘柄が多いでしょう。つまりシーゲルの言った、高配当戦略 = 10種戦略とは、単なる低PERないし低PBRといった割安株を別の方向から見ているに過ぎない可能性が十分あると私は考えます。


交絡因子の除去


この高配当と低PERのように、一つの物事が他の物事の影響を受ける場合は(交絡因子といいます)、統計学的にその影響を除去するために研究方法を変更する必要があります。


例えば、タバコを吸っている男性に肺癌が多いという研究があるとします。この場合、(タバコを吸うこと)(男性であること)のいずれもが、肺癌に結び付くのでしょうか?


男性の方が喫煙率が高いのは当然ですから、この関連が評価に影響を与えそうですよね。


こういった場合は、研究方法を変えて(多変量解析などの特殊な統計方法を用います)解析を行わなければならないのです。


米国株の10種戦略での問題


残念ながら、彼の著書や論文では、配当の多さとPER・PBRなどといった、要因同士の関連をどう処理したかという問題は触れられていません(他にも原著論文を読まれた方は、この点、訂正があれば是非コメントいただければ幸いです)。


また、前回からの繰り返しになりますが、実際に実証実験である前向き研究でもこの戦略の有効性を確かめた研究もありません。


従って10種戦略というのは、単純に低PER・PBR戦略の変形、つまり安値傾向の銘柄を高配当という形から見ただけである可能性も十分にあると思います


問題を踏まえて


しかしよく見ますと、10種のリターン(年15.7%)は、低PERのリターン(年14.1%)よりも優れています。


ここに関しては、低PERかつ、その中でも高い配当を出す財務基盤がある企業を選び得たという意味で、高配当戦略は単なる低PER戦略よりも優れていたのかも知れません。


しかし、当然ながら企業の優劣は高い配当のみだけでなく、ROE、ROA、債務の水準、そしてその企業が有する「堀」などといったものと、支払う価格を総合して決定するものですし、要は平均以上の企業を、平均以下の価格で購入することが重要なのだろうと思います


高配当はそのパラメーターの一つに過ぎないというのが私の考えです


高配当コア10種戦略


それでは、増配を繰り返す企業に重きを置く、コア10種戦略の有効性はどうでしょうか。


これに関しては、私の考えは否定的です。


(1)増配を繰り返す企業が果たしてその財務基盤は必ずしも堅牢なのかということ、(2)増配 = 高リターンという概念にとらわれた投資家の人気により増配企業の人気は過熱し高値を付けていないかということが、その理由です。


当ブログで繰り返しお伝えしましたように、たとえ本業が衰退ないし激しい競争下にあっても、増配を繰り返す企業は存在します(具体例としては、エクソン・モービル、P&Gなどの米国株の項もよろしければ御参照ください)。


これは増配そのものが投資家や経営者にとってステータスとなってしまっており、経営者は株価下落を防ぐため増配を求め、投資家はリターンを得るために増配を求め、結果、連続増配企業にプレミアムが付く現状があるためです。


こういった企業は業績不振時には借入金を用いてでも配当を維持しようとするでしょうし、非効率的な資本の配分となるこのような配当金が、株式価値 = 企業価値の保持に役立つかどうかは私には疑問です。


そして実際に、彼の研究でも10種とコア10種に明らかな差はないようです。


従って、私は連続増配年数は投資判断の根拠にしません。その企業のファンダメンタルズが維持されれば今後も増配は維持されるでしょうし、あくまで連続増配は過去の結果であって将来を保証するものでは無いと考えています。


次回はこれまでにお伝えした点を踏まえ、私がシーゲル投資を仮に行う場合の米国株での銘柄選択に関してお伝えしたいと思います。




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