今回は2018年10月25日付、エルドラドの四半期決算を見ていきます。
エルドラド 四半期業績
本四半期の売上は8100万ドルにて前年比 -15%、営業利益は-1億3500万ドル(前年同期-3100万ドル)、純利益は-1億2800万ドル(前年同期-400万ドル)でした。
また今回、本企業の主力鉱山Kisladagの改装工事にかかる費用が2019-2021年に5億2000万ドルの見込みと示され(Lamaque鉱山も含めると5億5000万ドル)、これは時価総額6億ドルの本企業にとってかなりの規模の投資であり、その財務負担が懸念されます。
これらの結果を受け、決算翌日の市場では株価は-6.1%安を付けています。
ではこの結果が当企業の本質的価値にどの位のインパクトを及ぼすのか、順に財務諸表を読み進めていきましょう。
財務諸表
売上
※EGO IR, 2018 Q3より引用。
本四半期の売上は前年比-15%です。
これは本四半期の金生産量が-1.3%とやや減じたこと(2017年 : 65439 → 2018年 : 64589オンス)、また金価格が前年比-8.1%となったことが主因です(2017年 : 1290 → 2018年 : 1177 ドル/オンス)。
ここは金鉱という産業の特性上、金価格自体は市況の回復を待つしかありませんので、どうにも仕様が有りません。
また金生産量の減少は前回までの本シリーズでお伝えしましたように、Kisladagの改装工事に伴う生産減が始まっていることも、もう一つ重要な点です。
※2017年年次報告書より、2018年度生産目標ガイダンス
上図は以前のシリーズでお示しした2017年に示された2018年度ガイダンスになりますが、この中で本企業の金生産の60%ほどを占める主力鉱山Kisladagが、本年は予定通り生産量を減じているのですね。
ただ上図のガイダンスと比べると、実際今年に入ってから(本決算)の2018年見通しでは、産金量34.5-35万オンス(Kisladagは12-13万 → 16-17万オンス)と上方修正され、また金の Cash operating cost は600-650ドル/オンスとなっています。これは昨年時の見積もりより大分な改善です。
従って売上減は概ね予想していた通り、ないし予想よりマシというのが私の感想です。
因みに本企業の財務を見ていて思うのですが、ほぼ無借金を続け、また今後の見積もりは低く低く発表し(そして実際にそう考えているよう見えます)、後にマシになった結果が判明するという傾向にあり、長い不況の果てに経営陣は実にシケモク企業の経営者らしくなっている印象です。
この傾向は企業を大きく成長させる分にはあまり期待できないのですが、シケモク投資という観点からすると、有利な特性かと感じています。
純利益
さて純利益は赤字幅が1億2800万ドルと、これは前年が400万ドルの赤字ですのでかなりの増悪に見えます。
ここは売上高損失率で言うと-158%と、かなり強い数値です。
そこで上図で、赤字の大元になっている数値を探してみると、Impairment loss on property, plant, and equipment の1億1800万ドルの赤字が主な要因ですね。
これは前述のKisladagの改装に当たり将来の鉱山価値の見積もり額が変動したことが原因で、その減損によるものです。よってこの赤字は今回限りの一過性のものとなりますので、その分減じて考えると、本四半期の赤字は1000万ドルです(因みに前年同期は9万ドルの黒字 ※注1)。
これは補正後の売上高損失率で言うと-12.3%になりますので、決して小さい数値ではないため注意が必要ですが、補正前に比べると大分マシなのです。
損益計算書では、本企業は前四半期で激しい金価格下落に見舞われ、業界が軒並み利益減ないし赤字に沈んだ割に、一般管理費・確定給付年金など可能と思われるコスト面の削り込みも行われており、零細企業にしてはよく耐えているのかなと感じます。
※注1:2017年にも同様に一過性コスト、Acquisitionが計上されています。これはLamaque鉱山の取得に要したコストです。上ではこちらも差し引いたうえで比較を行っています。
簿価
次は簿価を、型通りグレアムの「賢明なる投資家」の基準に沿って見ていきましょう。
現金は額面の100%、清算時に即時戻ってこないリスクがある売掛金等は80%、棚卸資産は本企業では金・金鉱石など換金価値が見込めるものであることから70%、有形固定資産を50%、のれん代を15%で計算します。
これにより本企業の流動性資産+固定資産の清算価格は26億7900万ドルとなります。そして負債は本企業では13億4900万ドルであり、この差13億3000万ドルが本企業の清算価値ということになります。
現在の本企業の時価総額が6億1000万ドルです。従って前回までは、この清算価値と時価総額の差、即ち安全域は十分に確保されていた訳なのですが、今回はネガティブ・サプライズがありました。
Kisladagの改装工事にかかる費用が5億5000万ドルと今回発表されたため(※注2)、清算価値はこの分を減じて考えなくてはいけません。つまり清算価値は7億8000万ドルと大幅減になるのです。
ここでの安全域(=予測リターン)は28%とまだ確保されているのですが、残念ながら前四半期より大きく毀損される見込みです。
そして今後は前述のKisladagの改装工事に、手元流動性の殆ど(金価格の停滞が続けば負債)をつぎ込むことになるかと思います(注3)。
※注2:なお改装工事によって得られる金鉱価値は既に簿価に含まれています。
※注3:本企業は殆ど負債が無く、固定資産への抵当権は殆ど付いていないものと推測します。固定資産42億ドルを担保として、その4割の借り入れ能力があるとすれば(控えめな見積もりかと思います)、16.8億ドルの与信枠となり、現状のDebtが6億ドルであることからは10億ドル以上の借入がまだ可能かと個人的には見ています。
本質的価値を考える
本質的価値とは流動的なものです。良好な業績で毎年成長を続けるような企業では、年々その本質的価値は累積的に増加を続けます。そして赤字続きの企業ではその逆も然りです。
では本企業の場合、今後の本質的価値はどう動きうるのでしょう?
本企業は金鉱ですので、金価格がその価値の殆どを決めます。金価格が上昇し金の採掘にかかるトータルコストを超えるならば、得られる収益及び鉱山価値の増加自体によって、本質的価値は改善を続けるでしょう。逆に金価格が現状より下落し、金の採掘コスト以下が続くなら、本質価値は各種経費による赤字に削られ徐々に減じていくものと思います。
そしてここでは黒字ないし極僅かな赤字が、本企業の本質的価値を現状のまま保つのに最低限必要となります。
本質的価値を保つための必要な条件
本企業の最近の四半期成績で黒字化が達成出来ていたのは17年Q3, 18年Q1であり、金価格が概ね1300ドル/オンスを上回っている時です。よって恐らく本企業の金価格の損益分岐点はその付近にあるものと思われます。
ただここで重要となってくるのが2019年から開始されるKisladagの改装工事、それによる本企業の今後の産金量・産金コストの変動です。
上図は本年及び今後のKisladagの金生産量、及びその Cash operating cost の見込みなのですが、今後の工事を受け徐々に増悪する見込みが示されています。
よって来年以降、同鉱山の業績落ち込みは避けられないと思われますが、Lamaque鉱山がこの落ち込み分をカバーするものと考えられています。
この見通しを踏まえ、今回の決算では本企業の2019-2020年の金生産量は年30-32.5万オンス(2018年は34.5-35万見込み)、その生産コストは本年と同程度になる予定です。
・・・・・
ただ、一つ経営陣、そして長期の株式保有者にとっての大きな希望は、2021年以降はKisladagの改装工事が終了し、同鉱山の下図の見通しが示されていることです。
※なお、Kisladagの鉱山価値の推測にはDCF法が用いられ、そこでの割引率は5%、想定金価格1300ドル/オンスが適用されています。これは個人的には少し高い割引率を用いた保守的な前提かと考えています。
これを受け、2021年に向けて本企業全体で以下のように金生産量、コストが改善するものと示されています。
(1) 本企業全体で年間60万オンス(現在35万オンス)の金産生量
(2) より低コスト(キャッシュコストが2018年現在よりも企業全体で100-150ドル/オンス改善)
(3) その後9年間に渡り同鉱山から生産可能
つまり途中で多少生産性は落ちるけれども、丸2年耐えきれればより良い鉱山に生まれ変わるということであり、云わば経営陣の大きな賭けに我々も付き合っていることになる訳ですね。
金鉱株自体がバクチのような性質をもった株な訳ですから、そこに更にバクチの要素がかかる本企業は、とびきり値動きが強い株になるのも無理はないと思います。
まとめ
投資の要旨
ここまでのポイント、及び本投資でのポイントをまとめます。
(1)工事費用に伴い2019-2020年にかけ本企業の本質価値は毀損される見込みだが、それを加味してなお現状の安全域は28%ほど保たれている。
(2)2020年まで金生産コストは現状と同じ、生産量も同じかやや減の見通し。2021年からいずれも著明な改善が期待される。
(3)借入がほぼ無い良好な財務を鑑みると、今位の金価格であれば本企業は持ちこたえる可能性が高いと思われる。
(4)金価格の損益分岐点は1300ドル/オンス付近と現状考えられる。つまり金価格が本投資のカギであり、金価格次第で本質価値は上下に変動する。
こう考えると、本企業の投資はかなりシンプルな構造に見えますね。
私の考え
さて、本質的価値と現在の価格のスプレッドが28%ですので、今の金価格が続けば理論的なリターンは2年で概ね28%となります。これはホームランとは言えないまでも、まあ悪くはない賭けです。
よって今のところ、本企業のホールドを続けます。
しかし金価格の上下動によっては金鉱の価値=本質価値自体も変動することとなりますので、金価格の下落が長い間続く見通しとなったり、更なるサプライズの出現により、高い確率で私が見積もっていた本質価値が間違いだったと感じれば、価格に寄らず本企業を売却するでしょう。
というのは本シリーズの最初にお伝えしたように、こういった企業への投資はあくまで必勝を期すものではなく、不確定ながらもオッズが当方に有利と思われる銘柄で複数回の賭けを繰り返し、総じてリターンを得るものだからです。
従って各々の賭けに負けることはちょくちょくありますが、繰り返すことで、やがて長期的には大数の法則に則った複利効果が得られるような投資かと思っています。
最後に
今回の Kisladag改装にかかる設備投資額の変更は、ホルダーにとってかなり大きなインパクトを持つものでした。また Skouries鉱山において、ギリシア政府からの認可がなかなか得られない問題も未だ暗雲をもたらしています。
ただこのような事態が生じてなお、本銘柄は元来の強い安値のため、未だ保有する根拠は保たれているものと感じています。
投資を続けていると、このようなサプライズ、そして他にも企業の不祥事や、地政学リスク、労働組合の争議など、様々な問題に直面することがあります。
こういった難関を避けて通ることが出来ないのが個別株投資の悩みのタネなのですが、安全域を十分にとること、そしてブランド価値などに乏しく不確実性の高いグレアム投資では、分散投資とすること(1銘柄当たりポートフォリオの5-10%位ずつ)で大半の問題は解決可能かと思っています。
そしてこのような先行きが見えず、故に市場が見捨てたような投資を複数束ね合わせると、逆説的ながらもとても手堅い投資となること、ここが投資の大変面白い所かと、私は思っています。
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